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東南アジア諸国が及ばない日本が勝負すべき場所

東アジアと世界の行方(6)東南アジアの発展と日本の将来

白石隆
公立大学法人熊本県立大学 理事長
情報・テキスト
東南アジア諸国では、若い人たちがICTを用いたビジネスを盛んに展開している。日本の勝負すべき場所はどこにあるのか。立命館大学特別招聘教授でジェトロ・アジア経済研究所長の白石隆氏が、高齢化社会を先導する日本の強みについて解説する。(全6話中第6話)
時間:06:48
収録日:2017/11/24
追加日:2018/03/07
カテゴリー:
≪全文≫

●タイでは大学卒業後、すぐに起業する人が増えている


質問 各国が若い人たちのビジネスの障害を、いかに取り除くのかが重要だということですね。

白石 私も2017年になってそれを痛感するようになりました。6月にタイの泰日工業大学に行く機会がありました。それは、日本に留学してタイで成功した人たちがつくった大学なのですが、もともとは卒業生が日系企業に就職するということが売りでした。しかし今では、もうあまりそれを気にかけていないようなのです。むしろ卒業後すぐに自分で会社をつくって、ビジネスを立ち上げたいという人が多くなっています。本当に21、22歳の人たちがやり始めているのです。

 ただし、「日本がまだ何か手助けできることはないか。提案して欲しい」ということで、私が呼ばれたのです。よく考えてみると、今までの例えばJICAの協力は、プロジェクター向けがほとんどでした。プロジェクトとなると、専門家を派遣してきたわけです。しかしすでにこの大学では、今までの技術協力のやり方では対応できない状況がありました。人がたくさんいるために、一人の専門家を派遣しただけでは対応できず、むしろ何人かネットワークのハブになるような人と連絡を取ることが重要でした。彼らの持っているネットワークで、たくさんの人がうまくつながっていけるのです。

 日本に帰国後、知り合いの日本人の経営者と食事をしていると、面白い話を聞きました。その方は日本で農産物のB to B、つまり生産者とレストランを直接つないでいるのですが、日本ではこのシステムを立ち上げるのに3年かかったところ、フィリピンでは半年でできたというのです。それは要するに年齢の違いです。つまり、日本の農業者は皆、高齢化しているのですが、フィリピン人は若く、スマートフォンなどICTを使いこなしています。だから半年で全部出来上がったというのです。これはもしかすると、とんでもないことが起こりつつあるのではないかと感じました。

 恐らく足りないものは、テクノロジカルなアドバイスやファンドです。その辺りがうまくいって、政府がレギュレーションなどをうまくつくれば、東南アジアもどんどんと伸びていくでしょう。


●今後の生き方に関わる部分で、日本にはまだできることがある


質問 日本には、ビジネスでのし上がってやろうという、ぎらぎらした若い人が少ないように感じます。日本は今後どうなっていくでしょうか。

白石 恐らく同じゲームをしていては、日本は勝てないでしょう。日本の役割を別のところに求めるべきです。例えば、東南アジアに行ってレクチャーするときに、よく私はこう言っています。

 日本は非常に面白い国です。起業の数は落ちていますし、事業継承数も落ちています。経済成長率はもちろん低くなり、これからの高齢化を考えれば、それを示した日本地図を見ただけでがくぜんとするような状況にあります。しかし他方、例えば世界で最も住みやすい都市として日本の大阪が上位に入っているということも事実です。日本は、財政の問題はあるにしても、平均寿命は一番高く、これだけの高齢化社会で社会保障費はGDP比25パーセントを維持しています。つまりある意味では、アジアの他の国にとって到達目標になるような国になっているのです。

 ですから、ものすごくうまくいっているところと、しかしこれからのことを考えるとどうしても気がめいってしまうという両方があって、日本はそういう国なのだとレクチャーでは言っているのです。そうすると、よく出る質問の一つが「平均寿命が90歳近くになったときに、今までの人生設計の仕方でいいのですか」というものです。すでに政府が取り組み始めていますが、これは重要な問題でしょう。

 例えば、タイの平均寿命はまだ70歳強ですから、私ぐらいの年になると人生の終わりに差し掛かっていると考えるわけですが、ところが後10年20年後には状況は変わっているでしょう。彼らに私の父が65歳でリタイアして30年間以上過ごしたと言うと皆、驚きます。やはりこれからの生き方に関わる部分で、日本にはまだできることがあるのではないかと思うのです。テクノロジーとは関係のない面で、例えば高齢者向けのビジネスがそうなるかもしれません。
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