●2017年現在、1945年の債務残高GDP比を超えている
法政大学経済学部教授の小黒一正です。まずは、よくご存じの方もいるかもしれませんが、あらためて財政の姿について振り返りたいと思います。
資料は、平成29年度の国の一般会計の歳出・歳入の構成になります。補正予算はまだ組まれていませんが、全体が100兆円になっています。左側にある歳出を見れば、社会保障が大体32兆円、国債費が大体23兆円、地方交付税は国から地方に渡す仕送りのようなものですが、それが15兆円です。これら国債費と社会保障費と地方交付税で全体の4分の3を占めています。残りの4分の1の予算で、昨今の北朝鮮問題や、安倍晋三総理が力を入れようとしている教育関係が支出されるという状況です。最大の支出項目は、すでにご承知の通り、社会保障関係費の32兆円になります。
次の資料は財務省作成の資料で、平成2年度と平成29年度の予算の歳入と歳出の変化を見たものです。一目瞭然ですが、歳出で大きく膨らんでいるのは2つ、社会保障と国債です。歳出がこのように膨らんでいる一方で、税収はあまり変わっていません。したがって、その差を埋めるために赤字がどんどん膨らんでいます。
これを示したグラフをご覧ください。グラフの赤いラインが一般歳出、青いラインが税収を示していますが、歳出と税収の差を国債の発行によって穴埋めしている状況です。
さらに、「政府債務残高の名目GDP等に対する比率の推移」というグラフがあります。1945年に債務残高GDP比はおよそ200パーセントを超えました。敗戦のために戦時債務は事実上放棄されましたが、戦後のインフレや預金封鎖、財産税といったさまざまな手段が駆使されました。2017年現在、こうした1945年の債務残高GDP比をすでに超えて、さらに債務が膨らんでいます。これが現在の財政の姿です。
●利払い費がじわじわと増えている
こうした状況下でも、財政が何事もなくうまく回っている最大の原因は、一言でいえば、金利が低下し、利払い費が抑制されているからです。現在、長期金利は0パーセント程度になっていて、そのために利払い費が増えないのです。
昭和50年度から平成29年度までの公債残高の推移を見れば、公債残高が急激に増えているのが分かります。他方利払い費は、昭和61年ぐらいから平成10年度ぐらいまでは横ばいで推移し、その後はむしろ下がってきています。
利払い費は、借金総額に金利を掛けたものです。したがって、借金総額が増えても金利がそれを上回って下がっていけば、利払い費は下がります。ただし、足元を見れば分かりますが、利払い費がじわじわと増えているのも事実です。40年債や30年債などさまざまな金利がありますが、その加重平均の金利は現在1.1パーセントに近づきつつあります。かなり抑制されているとはいえ、公債残高の増加に伴い、利払い費も増えているのです。
これに対しては、経済成長率を高めれば解決するという話をよく聞きます。しかし、実際に潜在成長率がどう変化してきたのかを見れば、いかに成長が難しいかが分かるでしょう。私も基本的には経済成長すべきだと思いますが、実態としてはこのグラフにあるように、例えばバブル期は大体4.4パーセントぐらいの成長率でしたが、バブル崩壊後の90年代には1.6パーセント、2000年代を平均すればおよそ0.8パーセントです。現状としては、大体1パーセント前後の経済成長率にすぎません。
●一般会計の社会保障費30兆円は全体の一部に過ぎない
社会保障のインパクトについて忘れてはいけないのは、実は先ほどの一般会計で見た30兆円という社会保障費は全体の一部にすぎないということです。次のグラフを見てください。「10年間で26兆円増の社会保障給付費」という見出しがついていますが、すぐ調べれば分かるように、年金だけでも1年間に支払っている金額は50兆円を超えています。2017年現在では、56~58兆円程度です。医療費も40兆円、介護費だけでも10兆円です。つまり、先ほどの一般会計の社会保障費30兆円では、全然足りないのです。
では実態として、どのような構造で社会保障費を支払っているのでしょうか。「年金や医療関係の給付と財政の関係」という財務省の資料があります。先ほどの資料では社会保障全体の金額は、2015年度で116兆円でした。この資料は2013年度の社会保障給付費です。年金、医療、介護、生活保護を足した社会保障関係費全体の金額が、大体110兆円になります。
この財源として、まず保険料が60兆円あります。さらに、年金などの積立金があり、加えてその運用収入などの資産収入が若干あります。ただしその金額は、年によって違いますが、6~8兆円程度と限られたものです。残りの部分を、国と地方の負担という形で穴埋めしているのが現状です。「国税負担」と書いてある右側に「...