●給付型奨学金は大学に行かない人も負担する
最近話題になっている奨学金についてお話します。前提として、大学に進学した場合、高卒と比べると生涯賃金が平均して7,000万円も増えます。
どちらかといえば公明党の政策でもありますが、現政府は給付型の奨学金を増やす方向で議論を進めています。財源は租税です。つまり、受益と負担の関係を考えると、基本的には大学に行っていない人も租税を負担することになります。ですから、そうした形で支援するのが本当に望ましいのかどうか、よく考える必要があります。
●普通の奨学金は、非常に厳しい状況に置かれつつある
普通の国債を発行した場合には、償還財源は租税です。しかし「財投の仕組み」という図を見ていただくと分かる通り、奨学金の場合、財投を使ってお金を流していく仕組みが機能しています。金融市場からお金を調達するために、見かけ上同じ国債ですが、財投債を発行して、お金の必要な財投機関に割り当てるという流れです。
図の財投機関のところに、学生支援機構というものがありますが、これは奨学金などを担当している機構です。奨学金といっても、ただであげてしまうのではなく、有償のものです。つまり、学生にお金を貸して、卒業後に返してもらうという制度です。この枠組みを拡充する方向性が一つ考えられます。
しかし普通の奨学金は、非常に厳しい状況に置かれつつあります。大学を卒業したけれども、3年ぐらいで入社した企業の収益が悪化し、賃金が上がらなくなったとか、場合によってはリストラされたといったケースが出てきているのです。結局のところ、普通の奨学金は住宅ローンと同じですから、借りた金額の元本と金利を返していかなければなりません。その際、収入が変化すると、低額であっても借りた奨学金が非常に重い負担になって、債務不履行になるという場合もあります。
●財政投融資では受益と負担が一致する
そもそも財政投融資は、受益と負担が一致する形の投融資で、そのサービスを利用する人が負担を負うことになります。普通の一般会計で発行される国債の償還財源は、誰も特定されていません。つまり、普通の人が消費税や所得税といった形で、国債を返却しているわけです。だから、各個人で見た場合には、受益と負担が一致します。保険の場合も受益と負担が一致します。他方、生活保護が典型ですが、消費税や所得税など租税を負担していなくても、受益することができるものもあります。この場合、受益と負担が一致しません。
財投は、典型例として高速道路のような社会資本の整備に用いられます。高速道路の場合、財投で発行した国債を使って建設し、建設後は高速道路を利用する人が高速道路料金を支払います。つまり、利用している人の収入で、債務を返していくわけです。
●所得連動型奨学金をもっと拡充すべきだ
奨学金はこの財投を使って回しているのですが、普通の奨学金だと厳しいのは先ほど述べたとおりです。そのため、各国がやっているのは所得連動型ローン、所得連動型奨学金と呼ばれるものです。
例えば、卒業後の収入が100万円だとすると、収入100万円に10パーセントを掛けたものを返済してもらうという仕組みです。収入が500万円だったら、500万掛ける10パーセントです。例えば、オーストラリアには無利子と有利子の所得連動型奨学金(Income Contingent Loan)があります。無利子のものは、全国共通の1次テストを受けさせて、能力が高い人だけに支給します。これを借りているのが8割ぐらいで、残りの人たちは有利子です。
実は日本でも、学生支援機構が既に2017年4月から、無利子については所得連動型奨学金を始めています。この部分をもっと拡充する方向があり得るでしょう。ただし、現状としては要件が非常に厳しいものになっています。例えば、親の世帯年収が300万円以下の人でないと借りることができないのです。オーストラリアの場合、要件はもっと緩やかです。
所得連動型奨学金はあくまで金融なので、不良債権化するケースもあります。オーストラリアでは、ストックで7~8,000億円も焦げ付いてしまっています。対応策も考えなくてはいけません。例えば、返済するときの利率に上乗せするというやり方もあるでしょう。いずれにせよ、所得連動型奨学金では、少なくとも受益と負担は一致します。
奨学金については、こうした仕組みをもう少し考える必要があるでしょう。そうすると、だいぶ変わってくるはずです。あまり知られていませんが、茂木敏充経済再生担当大臣や自民党の一部の人たちは、オーストラリアの高等教育拠出金制度(HECS)を参考にすべきだと主張しています。事実上日本では始まっているので、今後要件の緩和を含めて、モディファイしていくことになるはずです。