●「国全体として見れば公債に負担はない」は本当か
今回は公債の負担について説明します。現在、日本政府の借金はGDP比で200パーセントを超えています。これは、1945年、終戦前の債務残高GDP比をしのぐ水準です。
他方、メディアや書物の中では、次のような議論もなされています。すなわち、公債は国の借金だが、国内で消化されている限り、同時に国民の資産であるため、国全体として見れば公債に負担はない、というものです。金融機関が国債を買っているのは事実です。そこで、こうした議論を整理してみたいと思います。
●政府が国債を発行すると、家計から家計へとお金が流れる
図を見て下さい。結論からいえば、財政赤字は世代の交代がある場合には、最終的にはやはり負担になる可能性があります。図の左側に「公債発行時」というグラフがあります。ここでは、政府と家計が2つ(家計I・家計II)しか存在しないモデルで考えましょう。もちろん、現実の経済にはもっとたくさんの家計があり、家計以外にも企業がありますが、経済学では本質を浮き彫りにするために、このような単純化されたモデルで考える作業を行います。
まず考えてみたいのは、政府が全く借金のない状態で突然、1億円の減税をすることに決め、家計Iと家計IIはそれぞれ5,000万円ずつ減税を受ける、というケースです。また、家計Iと家計IIでは、家計Iの方が少し豊かで、たくさんの金融資産をもっており、他方、家計IIはあまり豊かではなく、金融資産を持っていないとします。この場合、何が起こるでしょうか。
政府はまず、国債を発行して現金を調達する必要があります。家計Iがその国債を引き受けることになります。そうすれば政府に1億円が入り、この1億円を家計Iと家計IIの2つに分けて、それぞれの減税分に当てることができます。
非常に面白いことに、このグラフによれば、政府は単なる導管にすぎません。政府には1億円が入ってきますが、それは結果的に家計Iと家計IIに対する5,000万円ずつの減税になるわけですから。官僚や政治家が、途中で懐にお金を入れてしまうというケースを実際に耳にしたことがあるかもしれませんが、その場合は、家計Iと家計IIのどちらかがその官僚や政治家だと思ってください。
次に、家計の側を見てみましょう。家計Iは1億円の国債を買いますが、家計Iに対しては政府から5,000万円の減税がなされま...