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「国全体で見れば公債に負担はない」は本当か?

日本の財政の未来(5)公債発行と世代交代

小黒一正
法政大学経済学部教授
情報・テキスト
日本政府の債務残高GDP比は200パーセントを超える状況だが、一方で、公債は国内で消化されている限り、国全体として見れば国民の負担にはならないとする議論がある。しかし、世代交代を考えた場合、やはり公債は国民にとって負担になる可能性があると、法政大学経済学部教授の小黒一正氏は指摘する。(全10話中第5話)
時間:11:50
収録日:2017/09/04
追加日:2017/10/05
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≪全文≫

●「国全体として見れば公債に負担はない」は本当か


 今回は公債の負担について説明します。現在、日本政府の借金はGDP比で200パーセントを超えています。これは、1945年、終戦前の債務残高GDP比をしのぐ水準です。

 他方、メディアや書物の中では、次のような議論もなされています。すなわち、公債は国の借金だが、国内で消化されている限り、同時に国民の資産であるため、国全体として見れば公債に負担はない、というものです。金融機関が国債を買っているのは事実です。そこで、こうした議論を整理してみたいと思います。


●政府が国債を発行すると、家計から家計へとお金が流れる


 図を見て下さい。結論からいえば、財政赤字は世代の交代がある場合には、最終的にはやはり負担になる可能性があります。図の左側に「公債発行時」というグラフがあります。ここでは、政府と家計が2つ(家計I・家計II)しか存在しないモデルで考えましょう。もちろん、現実の経済にはもっとたくさんの家計があり、家計以外にも企業がありますが、経済学では本質を浮き彫りにするために、このような単純化されたモデルで考える作業を行います。

 まず考えてみたいのは、政府が全く借金のない状態で突然、1億円の減税をすることに決め、家計Iと家計IIはそれぞれ5,000万円ずつ減税を受ける、というケースです。また、家計Iと家計IIでは、家計Iの方が少し豊かで、たくさんの金融資産をもっており、他方、家計IIはあまり豊かではなく、金融資産を持っていないとします。この場合、何が起こるでしょうか。

 政府はまず、国債を発行して現金を調達する必要があります。家計Iがその国債を引き受けることになります。そうすれば政府に1億円が入り、この1億円を家計Iと家計IIの2つに分けて、それぞれの減税分に当てることができます。

 非常に面白いことに、このグラフによれば、政府は単なる導管にすぎません。政府には1億円が入ってきますが、それは結果的に家計Iと家計IIに対する5,000万円ずつの減税になるわけですから。官僚や政治家が、途中で懐にお金を入れてしまうというケースを実際に耳にしたことがあるかもしれませんが、その場合は、家計Iと家計IIのどちらかがその官僚や政治家だと思ってください。

 次に、家計の側を見てみましょう。家計Iは1億円の国債を買いますが、家計Iに対しては政府から5,000万円の減税がなされます。したがって、出ていったお金が1億円で、入ってくるお金が5,000万円ですから、家計Iからは5,000万円が出ていったというお金の流れです。他方で家計IIには、5,000万円が入ってくるだけです。

 したがって、政府という導管を取れば、左側の下の図になります。つまり、単に家計Iから家計IIに5,000万円のお金が流れていくということです。政府が国債を発行すると、このようにある家計からある家計に対して、もしくはある個人からある個人に対して、お金が流れるのです。


●公債発行時と公債償還時では、お金の流れが逆転する


 次に、公債を償還する場合を考えてみましょう。それを示したのが右側の図です。政府が家計Iに対して、1億円の国債を持っている状態です。

 厳密には、金利分を含めて返済しなければならないのですが、ここでは便宜上、金利を0として考えましょう。一定期間後に、政府は家計Iに1億円を返す必要があるわけです。政府はお金がありませんから、家計Iと家計IIに対して増税するという場合を考えてみましょう。図では、5,000万円ずつ増税するということになっています。

 家計Iは増税分の5,000万円を取られて、政府から国債償還分の1億円を受け取ります。したがって、1億円から5,000万円を引いた5,000万円が、家計Iに帰ってきます。他方で家計IIは、増税分の5,000万円が取られるだけです。政府の導管を取った場合は下の図になりますが、単に家計IIから家計Iに5,000万円が流れたことになります。

 それでは、公債を発行した時点と公債を償還した時点を、一緒に考えてみるとどうなるでしょうか。公債発行時では、家計Iから家計IIに5,000万円が流れましたが、公債償還時では、家計IIから今度は家計Iに5,000万円が流れます。すなわち、お金の流れが逆転するのです。


●公債の償還時点では、子世代が増税分を支払うことになる


 それでは、最初に提起した問題、つまり公債は政府の借金だが、同時に国民の資産でもあるので、損得0ではないかという主張は、どのように考えればいいでしょうか。下側のグラフに注目しましょう。家計IIは、政府が国債を発行した時点では5,000万円を受け取りますが、その5,000万円は、国債を償還する時になれば出ていきます。つまり、発行時点と償還時点の両方を合わせると、損得0です。家計Iも同じです。最初の時点では5,000万円出ていきますが、国債を償還する時点では5,000万...
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