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国民負担なしに財政再建が不可能な2つの理由

日本の財政の未来(9)日本銀行の国債買いオペ(前編)

小黒一正
法政大学経済学部教授
情報・テキスト
日本銀行
法政大学経済学部教授の小黒一正氏によると、日本銀行が国債を買い切ったとしても、国民負担なしに財政再建はできない。それはいったいなぜなのか、その理由を2回にわたり説明する。第1の理由は、金融政策は資産の等価交換にすぎず、国債を支えているのは私たちの預金だからである。私たちの預金が民間銀行と日銀の国債購入へと回されているのだ。(全10話中第9話)
時間:14:47
収録日:2017/09/04
追加日:2017/10/10
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≪全文≫

●発行銀行券・当座預金・政府預金で日銀は国債を購入する


 財政と金融に関する接合点について説明します。特に、日本銀行が大量に国債を持つということがどういうことなのか、考えてみましょう。

 近年、政府が1,000兆円の債務を抱える一方で、日本銀行が国債を大量に買っています。そのため、政府と日本銀行を一体として見れば、それ以外の民間が持っている国債は大幅に減っています。この視点で見れば、もうすでに財政再建は進んでおり、これ以上は必要ないのではないか、という議論もあります。ただし、経済学には重要な格言があります。No free lunch、つまり「ただ飯はない」ということです。

 まず、現状の日本銀行のバランスシート(貸借対照表)を見てみましょう。これは、2017年1月31日時点での日本銀行のバランスシートです。左側に資産、右側に負債と純資産、企業でいえば資本金に相当するものが記載されています。

 金額の大きいところに黄色いマーカーを付けました。資産側では、国債がおよそ415兆円あります。国債に比べれば、それ以外の項目はさほど大きくありません。他方、日本銀行の負債と純資産では、一番上にある発行銀行券が目立ちます。これは日本銀行が発行している1万円札と5,000円札、そして1,000円札の総額です。これが私たちの財布の中に入るお金、つまり市場に流通しているお金になります。およそ98兆円です。

 さらに、当座預金と呼ばれるものがあります。これは準備預金を省略して「準備」とも呼ばれます。私たちが民間のみずほ銀行や東京三菱UFJ銀行などに預金するのと同じように、銀行や証券会社、生命保険会社も日本銀行に預金しています。こうした準備預金の総額が331兆円です。その他にも、政府が預けている政府預金が31兆円あります。

 大雑把にいえば、発行銀行券・当座預金・政府預金を使って、日本銀行は国債を購入しているのです。


●日銀が国債を買い切っても、国民負担なしに財政再建はできない


 先に結論を述べれば、日本銀行が国債を買い切ったとしても、国民負担なしに財政再建はできません。その理由は2つあります。第1に、金融政策は財政政策とは違います。財政政策は基本的に、議会で消費税法や所得税法といった税制関係の法律が制定され、それによって強制的に私たちの懐からお金が取られるという仕組みです。集めてきたお金は、対価があろうがなかろうが、国民に再分配政策を通じて配分されます。しかし、金融政策は資産の等価交換にすぎません。どの銀行や金融機関でも、何かを相手に渡してその対価をもらうという、等価交換を行っています。日本銀行でも同じです。日銀が買い取る国債を支えているのは、私たちの預金なのです。この点を今回説明します。

 金融政策は資産の等価交換に過ぎないのですから、日本銀行は国債を購入する代わりに、何かを供給しなければなりません。それが準備です。この点に関して、国債を日銀が買い取っても、国民負担なしに財政再建ができない第2の理由が出てきます。つまり、準備の金利を引き上げると、実は国債を発行しているのと同じ機能があるのです。すぐには理解できないでしょうから、この点は次回説明します。


●日銀が国債の買いオペを行うとどうなるのか


 まず第1の理由を理解するために、次のスライドを見てください。左側の図表1には、日本銀行・民間銀行・政府という3つのプレーヤーのバランスシートが載っています。日本銀行の資産側には、先ほどと同じように国債が400兆円、負債側には発行銀行券、つまり現金が100兆円、政府預金が50兆円、準備が250兆円あります。現実の数字とは違って、おおよその数字です。日本銀行は右と左がそれぞれバランスよく400兆円になっています。

 政府部門に関して、日本銀行に預けている政府預金は50兆円だという試算があります。同時に、政府には借金もあります。ここでは、国債が800兆円発行されていると想定しています。そうすると、政府は800兆円の国債を発行していて、日本銀行が400兆円分持っているのですから、残りの額400兆円を民間が持っていることになります。

 国債は、個人国債として家計も持っていますが、その大半は銀行や証券会社、生命保険会社が所有しています。ここではこうした国債を所有する民間機関をまとめて、民間銀行が1つ存在すると単純化しました。民間銀行の資産には、国債400兆円が入ります。また、日本銀行に預けている当座預金(準備)250兆円も資産です。

 他方、私たち家計の個人金融資産が民間銀行に預けられており、それがここでは1,600兆円として民間銀行の負債の側に記載されています。この1,600兆円の預金のうち、400兆円が国債、250兆円が準備に流れており、残りの950兆円が企業への貸し出しになっています。これが民間銀行のバランスシートです。実際には...
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