●財政収支は20兆円の赤字になっている
政府の債務残高のGDP比が、今後もし改革を行わなければ、どれぐらいの水準になるのか、これを説明する理論に、ドーマー命題と呼ばれるものがあります。今回はこのドーマー命題についてお話します。
政府の債務残高GDP比は、2017年度では、第2次大戦中の200パーセントという水準を、優に超えるところにまで伸びています。また、政策経費と税収・税外収入の差が、プライマリーバランス(基礎的財政収支)を示すわけですが、それは10.8兆円の赤字になっています。
通常、政府は借金があれば利払いをしなければいけません。そのコストも勘案すると、厳密にいえば、政策経費に利払い費を加えたものが支出です。これと税収・税外収入の差が、いわゆる財政収支と呼ばれるものです。財政収支は、平成29年度(2017年度)の一般会計予算で見れば、20兆円ほどの赤字になっています。歳出の側には、債務償還費と書かれていますが、これは財政収支にはカウントされません。1回の公債金収入で34兆円を借り、すぐに14.4兆円を返します。入ってきた額に対して、すぐに返済する額があるわけです。したがって、実際に借りているのは、差額の20兆円ということになります。これが新たに借金が増える部分、すなわち財政収支の赤字を構成します。
●ドーマー命題から、今後の債務残高GDP比が分かる
ドーマー命題は、こうした財政収支の赤字と今後の名目成長率から、債務残高のGDP比が今後どれぐらいになっていくのかを予測するものです。
ドーマー命題とは、次のような命題です。「名目GDPの成長率が一定の経済で、財政赤字を出し続けても、財政赤字対GDPを一定に保てば、債務残高GDP比の比率は一定値に収束する」。このことを証明するのはここでは難しいので、もし必要があれば、公共経済学の本をお読みいただければと思います。
この命題を利用するために、知っておく必要がある情報は2つです。すなわち、財政収支の赤字(財政赤字のGDP比)と名目成長率です。一方をq、もう一方をnとしましょう。すると、ドーマー命題によれば、債務残高のGDP比がn分のqに収束する、ということが分かっています。
例えば、名目成長率が1パーセントで、財政赤字のGDP比が5パーセントだとしましょう。そうすると、債務残高GDP比は、500パーセントに向かっていくということになります。もし仮に、名目成長率が1パーセントの経済で、債務残高GDP比の水準を200パーセントにとどめようとするなら、財政赤字のGDP比は、2パーセント程度にまで縮小しなければなりません。要するに、3パーセント分の赤字を圧縮する必要があります。ドーマー命題から、このようなことが分かるのです。
●2025年にGDP比で4.4パーセントの財政赤字となる
では、実際に、政府の財政赤字のGDP比が今後、どのように推移していくのかを見てみましょう。2017年7月、内閣府の中長期試算が発表されました。ここには、政府の出した名目成長率の見積もりが載っています。
スライドの右側に、国・地方の財政赤字の予測があります。赤いラインは、経済再生ケースを示したものです。スライドの左下にある、名目成長率のグラフを見てください。2018年あたりでグラフが分岐しており、2025年までの名目成長率の予測のラインが、2本書かれています。この赤いラインは、2020年あたりでおよそ4パーセントに達していますが、こうした名目成長率の経路を、政府は経済再生ケースと呼んでいます。4パーセントの名目成長率というのは、バブル期と同程度の経済成長をする、好循環のシナリオです。
他方、名目成長率のグラフの青いラインは、ベースラインケースと呼ばれるものです。2000年代の名目成長率の平均はおよそ1パーセントです。こうした、これまでの日本の体力に沿った経済成長率が続くと予測するのが、ベースラインケースです。ここでは、2021年から25年まで、およそ1パーセントの成長率が見込まれています。
さて、経済再生ケースとベースラインケースのそれぞれで、財政赤字のGDP比がどうなるのかを予測しているのが、スライド右上のグラフです。それによれば、経済再生ケースでは、2025年におよそ2.8パーセントの赤字、他方ベースラインケースでは、4.4パーセントの赤字になると、予測されています。
●政府債務のGDP比を抑制するには、財政再編が不可欠だ
通常、財政を考える場合には、急激な経済成長で日本経済が良くなると楽観的に解釈するよりも、これまでの日本経済の実力と同程度に推移していくだろうと、保守的に考えるのが自然です。ベースラインケースで考えると、財政赤字のGDP比はおよそ4.4パーセント、名目成長率は1パーセントです。したがって、財政赤字を圧縮するか、政府が成長戦略を実行して名目成長率を上げない限り、ドーマー命題に従...