●日本はデッドサイドに突き当たっている
質問 今後人口が減少していき、経済成長率も落ちていく中で、日本はもっとドラスティックな改革が必要なのではないでしょうか?
それはあると思います。今回お話したのは、あくまで現状の社会保障を軌道修正するとどうなるのかというものにすぎません。ただし、これでも結構ドラスティックな改革だと思いますが。
日本という国は、およそ80年周期でガラガラポンしてきたと思います。例えば明治維新は1868年ですが、その後日露戦争でピークを迎えたのが1905年です。当時ガバナンスしていた人たちは、明治維新の時の元老です。彼らがいなくなってガバナンスが崩壊し、軍部が暴走する。そして最終的には太平洋戦争に突っ込んでいって、崩壊するわけです。
1945年からは、中曽根康弘元総理など、戦争に行ってひどい目に遭った人が活躍します。ピークになったのは1985年で、まさにバブルが始まる時期でした。「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれて、システムが最高になった時です。当時の日本が乗った流れというのは、私の視点では、革命が起きつつあった電子工学の流れです。日本はその第2フェーズから世界経済に名乗りを上げました。当時既にあったテレビなどの製品を分解して、もっと良いものを造って売り出していき、市場を独占したのです。しかし、今では見る影もありません。
経済成長面でいえば、1996年には、世界の時価総額ランキングトップ25社の中に日本は入っていましたが、2016年になるともう1社も入っていません。GAFA、つまりGoogleやApple、Facebook、Amazonが勝ち組です。日本の最高ランクは47位のトヨタです。しかし、今後中国がEV車に本気で取り組んでいく中で、もしパソコンと同じようにモジュール化されたりすると、トヨタでさえも相当な打撃を受ける可能性があるでしょう。
そういう意味では、はっきりいって根本的にデッドサイドに突き当たっています。企業のバランスでいえば、社会保障と財政がデッドサイドで、アセットサイドも相当危うい状況かと思います。
●コストを全て中央で引き受けて配分するのは困難だ
今、世界で起きているのは、データとAIのグローバル競争です。すでに囲い込みは始まっています。そうした中で、全てのものの構造を結構変えないと厳しいでしょう。成長戦略に関しても、私は持論があります。
例えば、負のアロケーション(配分)については今回あまり触れませんでしたが、統治構造も結構重要です。最近はもうあまり議論されなくなりましたけど、100の負のコストがあります。要するに、低成長で社会保障が膨張していく中で、100のコストがあったときに、このコストを全て中央で一身に引き受けて配分しようと思っても、これは相当困難です。
そこで、選挙のシステムを変える必要が出てきます。道州制の話もありますが、日本を10ぐらいのエリアに分けて、コストを10ぐらいずつそれぞれのエリアで配分していけば、もう少し風圧は少ないのではないかと思うのです。国と地方の関係について、今の議論は基本的には総論賛成、各論反対になってしまいます。というのも、例えば都道府県に一気に全ての権限を預けてしまい、地方交付税を廃止してしまうような印象があるからです。
●「地方庁」という組織を造ってはどうか
そうではなく、移行機関のシステムを造るべきです。「道州制を含む地方分権に向けた国土形成計画の新たな役割と「地方庁」構想」という論文にも書いたのですが、地方庁という組織を、各省庁の地方支分部局の上に造ってはどうかと考えています。なんかだんだんSFチックな話になってしまうかもしれませんが。
現状では、官僚的な発想になりますが、例えば東北地方庁や四国地方庁をつくっても、これらを総務省の人が独占しようとし、霞が関でバトルが始まってしまいます。そうならないように、例えば各省庁の交代制にするのもいいでしょう。また、地方庁にアドバイザリーコミッティーを設置して、知事に入ってもらうのです。そして、地方交付税は分配します。例えば、100の交付税があったら、同州の格差を埋めるために20は国が持って、残りの80を各エリアに渡します。それを、各地方で配分させるのです。
国土交通省が2010年と2050年の国土のグランドデザインというものを出しています。それによれば、人口が半分ぐらいになるエリアが6割、2割が無居住化するというのです。もしそうだとすれば、画一的な行政ではコントロールできません。
なので、もう少しフォーメーションを変える必要があると思っているのです。こうした点まで含めれば、かなりドラスティックに変えなければなりません。成長戦略もそうですし、社会保障も今の年金の仕組みも、もっとドラスティックに変えると全然違う仕組みになるでしょう。...