●2025年以降には医療費の国庫負担が5倍に膨らむ
「10年間で26兆円増の社会保障給付費」というグラフを見てください。90兆円と116兆円と数字が付いている箇所がありますが、これが10年間の伸びです。要するに、10年間で26兆円伸びており、年間平均でならせば2.6兆円の増加です。
2.6兆円というのは、実は消費税を1パーセント増税したときに手に入る税収とほぼ同じ額になります。したがって、もし社会保障を抑制しなければ、毎年1パーセント程度増税しないと、社会保障財源が手当てできないというぐらいのスピードで、社会保障給付費は伸びているのです。
今後はさらに深刻になるでしょう。次のグラフを見てください。年齢階級別に見た1人当たりの医療・介護費になります。左側には、0歳から4歳、5歳から9歳、あるいは75歳から79歳などと、年齢階級別の医療費が示されています。
注目すべきは75歳以上の医療費です。例えば現役世代では、1人当たり平均で18万円の医療費がかかっています。65歳から74歳では、平均で55万円です。しかし他方で、75歳以上では90万円ぐらいの医療費になっているのが分かります。このうち、一般会計からお金を補填する分として、現役世代は1人当たり2.5万円、65歳から69歳は1人当たり7.8万円が補填されるのに対し、75歳以上になると35万円です。つまり5倍に膨らむのです。
2017年現在、団塊の世代はまだ75歳になっていませんが、2025年以降には完全に75歳以上になってしまいます。そうすると、国庫負担が5倍に膨らむことになるわけです。こうしたインパクトを示しているのが、次の図です。今回は時間の都合で割愛しますが、少し見ただけでも深刻さが分かります。
●経済再生ケースですら2025年度で2.8パーセントの財政赤字
財政のもっと深刻な状況を見ていただくために、「内閣府の中長期試算」というスライドを見てください。政府は、国と地方の基礎的財政収支を2020年度に黒字化するという目標を掲げています。基礎的財政収支とは、国債の利払い等を除いて、純粋に政策に充てられる政策経費と税収との差額を示します。
「国・地方の基礎的財政収支」というグラフにあるように、消費税が10パーセントに引き上げられたことを前提として、経済再生ケースでは2025年になれば、基礎的財政収支がプラスになると試算されています。新聞にもよく載っていますが、政府も財務省もこうした試算をベースにして議論しています。しかし、実は状況はもっと深刻です。
「国・地方の財政赤字」というグラフを見てください。ここには、経済再生ケースとベースラインケースが書かれています。経済再生ケースは名目成長率で2020年ぐらいにおよそ4パーセント、ベースラインケースは名目成長率で1.3パーセント程度のシナリオです。他方、2000年代の名目成長率は、実は1パーセントもありません。実質成長率でも0.8パーセント程度です。
つまり、経済再生ケースというのは、ある意味でバブル期に近い経済成長率を意味します。そうしたケースですら、国と地方の財政赤字のGDP比は、借金の利払いを含めてですが、2022年度ぐらいで若干改善した後、むしろ悪化していくという試算になっています。そして最終的には、2025年度でマイナス2.8パーセントの赤字になり、その後さらに悪化する姿が読み取れるわけです。また、ベースラインケースでは2025年度にマイナス4.4パーセントになっていますが、その後はマイナス5パーセントに達しようかという動きになります。
●ドーマー命題から読み取れる債務残高GDP比
財政赤字GDP比と名目成長率の2つの指標から、債務残高GDP比が国と地方を合わせて今後、どのような姿に向かって進んでいくのかを占う、経済学の命題があります。
それは「ドーマー命題」と呼ばれるものです。財政赤字のGDP比をqとして、名目成長率をnとすると、n分のqが今後収束していく先の値になります。債務残高GDP比は、分母がGDP、分子が債務残高なので、赤字が毎年増えていくとその分だけ膨らんでいくというイメージです。また、GDPの成長率自身が小さければ、債務が膨張すると、債務残高GDP比も当然大きくなっていきます。
こうしたイメージの最終形が、n分のqという形です。つまり、nが小さければ、収束する先が大きくなります。他方、成長率が高まってnが大きくなれば、GDPの膨張の度合いも大きくなるので、債務残高GDPの収束する先も小さくなります。
先ほど見た通り、名目成長率は1パーセントを切っていますが、仮にげたを履かせて1パーセントとしましょう。そして財政赤字GDPを4パーセントとしましょう。そうすれば、債務残高GDP比は今の2倍の4になってしまいます。ドーマー命題からは、こうした姿が読み取れるわけです。