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インフレ率が上がらないのは構造的な問題

日本財政を巡る課題(3)金融政策の課題

小黒一正
法政大学経済学部教授
情報・テキスト
日銀が目指しているインフレ率2パーセントは、いまだ達成されていない。法政大学経済学部教授の小黒一正氏は、医療や大学等のサービスに関して、価格統制を緩和すべきだと主張する。さらに小黒氏によれば、金融政策においても、日銀の国債購入は結局われわれの預金に支えられているということを直視すべきだ。(2017年10月30日開催日本ビジネス協会JBCインタラクティブセミナー講演「日本財政を巡る課題」より、全8話中第3話)
時間:09:56
収録日:2017/10/30
追加日:2018/05/19
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≪全文≫

●インフレ率が上がらないのは構造的な問題だ


 債務残高GDP比が今後も増えていくと予想されているわけですが、それではどうすればいいのでしょうか。これは社会保障改革にも大いに関係する問題です。これを論じる前に、以前テンミニッツTVでも説明しましたが、金融政策について見ておく必要があります。

 まず「CPI前年比の日米比較」という表を見てください。ご存じのように、2017年現在、日本銀行が目指していた2パーセントのインフレーションは、いまだ全く達成できていません。なぜ達成できないのでしょうか。ヒントの一つが、この表にあります。これは日本とアメリカの消費者物価指数(CPI)の前年比を比較したもので、左側がモノ、右側がサービスになります。

 モノ全体を見ますと、面白いことに、アメリカのほうがデフレーションがマイナス2.2パーセント、日本は1.2パーセントです。この傾向は当然グローバル化によって、今後も加速するでしょう。シェアリングエコノミーなど、様々な形で加速します。日本でも、電気自動車が入ってくれば、車の値段がもっと安くなる可能性が十分にあると思います。

 他方で、サービス全体を見れば、日本は0.2パーセントしか物価が上がっていないのに対して、アメリカは3パーセントも上がっています。確かにサービスセクターの生産性が高いという可能性もあるのですが、例えば30番の病院サービスに日本とアメリカの違いがよく表れています。病院サービスでアメリカは6.2パーセントの物価上昇が見られるのです。反対に日本は、1.1パーセントです。

 日本は医療が全て公定価格の診療報酬で統制されていますが、アメリカは基本的には自由診療です。価格は市場メカニズムに任されています。保険者もいるとはいえ、かなり自由です。あるいは大学でも、日本の私立大学はある程度授業料が統制されています。国立大学では、完全に授業料が統制されているといっても過言ではありません。介護や上下水道、保育関係もそうです。

 これらは全部、アメリカと日本で構造が違っています。したがって、金融政策だけの問題ではなく、構造的な問題だと思った方がいいでしょう。もしインフレ率を上げたいのであれば、解決策の一つとしては、やはり混合保育や混合介護、混合診療といったものを広げていく必要があります。国立大学を私立大学化するといったことも考えられるでしょう。


●日銀が国債を買っても、全体の債務が減ることはない


 これもテンミニッツTVで以前に説明しましたが、財政と日銀の関係も重要ですので、改めて少し説明します。まず、金融政策の流れを簡単に見ておきましょう。2013年4月から14年10月には、年間の国債購入額を50兆円から80兆円に増やしています。2016年1月以降はマイナス金利が導入されました。また2016年9月には、事実上、量的緩和を諦めて金利に焦点を合わせるようになり、長期金利の誘導目標が0パーセントになっています。長短金利操作付き量的・質的緩和への転換がなされました。

 しかしもっと重要なことは、政府と日銀の関係です。経営者であればすぐに分かるでしょうが、これは親会社と子会社の関係になっています。政府が親会社、日銀が子会社です。2つのバランスシートを合わせると、どうなるかを見てみましょう。

 前提として、日銀がやっているのは金融政策であって、財政政策ではありません。財政政策ではないということは、たとえ子会社である日本銀行が、親会社である政府の社債、つまり国債を買ったとして、親会社と子会社の全体の債務が減ることはないということです。債務を減らすためには、課税をするか、債務放棄をしないと変わりません。

 日本銀行のバランスシートを見てください。黄色いところが大きな割合を占めている部分です。全体では480兆円ほどあります。これは2017年1月のものなので少し古いのですが、金額は大体同じようなものです。国債を資産としてたくさん持っていて、400兆円ぐらいあります。

 左側には自己資本が書いてありますが、あってないようなものです。例えば金利が上昇すれば、すぐに吹き飛んでしまいます。他方、右側を見てみましょう。発行銀行券が98兆円あります。当座預金、つまり民間の金融機関が日銀に預金できる口座に、およそ330兆円入っています。また、日本銀行は政府の国庫ですから、政府預金が30兆円ぐらいあります。

 基本的には、この発行銀行券と当座預金と政府預金という負債側のもので、資産の国債を支えているという構造です。次のスライドを見てください。金融政策で日本銀行が国債をどんどん買っていくとしても、債務は減りません。政府は2017年度にはおよそ1,000兆円ほどの債務がありますが、例えば、金融政策として日本銀行が400兆円の国債を買ったとしましょう。そうすれば、政府の債務が400兆円分なくなるのか...
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