●以前は救済的な医療の形式だったオンライン診療
医療法人社団鉄祐会理事長の武藤真祐です。今回は、オンライン診療についてお話ししたいと思います。
オンライン診療は、まだ聞き慣れない言葉かもしれません。「遠隔診療」「遠隔医療」という言葉は、おそらく皆さんも耳にされたことがあるかと思います。遠隔医療は、かなり昔から実証的には行われており、基本的には医療を遠く離れたところでも行っていくという概念です。
遠隔医療は大きく2つに分けることができます。1つは「Doctor to Doctor」と呼ばれるように、医師同士が遠隔で相談し合うというものです。2つ目が「Doctor to Patient」と呼ばれるように、医師と患者さんの間で行われるものです。
まず、「Doctor to Doctor」ですが、これはすでに診療報酬にも入っていまして、例えば病理もしくは放射線の世界で使われています。病理医が少ないということが今よく言われていますが、ある病院で撮った病理の組織の画像を病理医がたくさんいるところに転送して見てもらう、もしくはCT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)やMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像)に撮ったものを他のセンターの先生に診断してもらうといったものです。
次の「Doctor to Patient」が、今回オンライン診療と呼ばれるところです。以前は離島やへき地、つまり医療が不足している地域で実証的に行われてきました。例えば、遠く離れた島で、専門の先生がいないときに本土の先生がビデオ電話のようなものを通じてお話をします。もしくは「Doctor to Nurse to Patient」と呼ばれるように、看護師さんが間に入る形で横にいて、患者さんと話をするといったものが行われてきています。ただ、これは非常に限定的な利用になっており、医療支援が非常に足りないところに対して行われる、ある意味救済的な医療の形式であったのです。
●2018年4月、診療報酬の中に初めてオンライン診療が導入
ところが、最近大きく動き出しましたのは、2016年11月に安倍晋三首相が未来投資会議において、「遠隔診療を進めていく。これに対して診療報酬もつける」としたところから始まっています。
それは、私も医師としては非常によく分かるのですけれども、ビデオを通しての診察というのは非常に通常の診察とは違います。対面診療でできることのごく一部しかできないのではないかということです。例えば、患者さんに触ることもできませんし、いわゆる嗅ぐこともできません。それから、通常の対面診療の場合、われわれは患者さんが診察室に入ってこられたときの歩いている様子、もしくはその全身を見て症状を尋ねるということをしますけれども、ビデオを使った診療の場合、患者さんが言っていること、もしくはビデオで見えることしか情報としては入ってきません。こういったものをいわゆる診療といえるのか、といった声があったのは事実です。
ただ、デバイスの進歩(例えばカメラ一つとっても、今非常に良いものがスマホにもあります)による通信速度であるとか、そこから情報を送れるとか、もしくは最近だとウェアラブルのデバイスなどがどんどん出てきています。そのような意味で10年前から技術革新が進み、できることが増えてきたということもあります。
また、もう一つの見方として、今、社会保障費がどんどんどんどん上がっていく中で、ある種の効率的な医療を提供していくということがますます求められるわけですが、そういったことを考えても技術革新を特に通常の医療に導入できないかという考えがどんどん出てきたということが挙げられます。
ただ、安倍首相が「やる」とおっしゃってくださったものの、実は今まで症例、あるいは実績が必ずしも十分ではありませんでした。したがって、これをどういう形で導入するのか、もしくはいわゆる保険を付けるときに、どういう要件を満たせば国民皆保険でカバーしていけるのかは正直なかなか皆、考えあぐねていたわけです。
結果としては、2018年4月に診療報酬の中に初めてオンライン診療が導入されましたし、その前の3月の終わりにはこれに対してのガイドラインができたということで、お金の手当てとルールの整備が進んだわけです。
●福岡市の「かかりつけ医」機能強化事業の推進
それに対して、実はわれわれもいろいろと関わってきました。どのように関わってきたか、お話しします。
まず福岡市で非常に重要なプロジェクトが走りました。それは、もともと福岡市の健康戦略を考える会議体が出来上がった時に私が委員に選ばれたところから始まっています。福岡市はこれから高齢化が進む中、どのようなことを主としてやっていくかということを...