●シンガポールで進めている日本式の地域包括ケア
医療法人社団鉄祐会理事長の武藤真祐です。最終回は、われわれが今の海外でやっていること、そしてAIやVRなどいろんな技術が進んでいく中でできること、できないこと、それらについて考えたことを説明します。
まず、われわれは今シンガポールで、日本式の地域包括ケアを提供する事業を進めています。これは、もともと私が「インシアード(INSEAD)」というフランスのビジネススクールのエグゼクティブMBA(EMBA)に通うためシンガポールのキャンパスに入学し、現地の情報を得ながら、日本型の医療の海外展開を考えたというところから始まっています。最終的にはEMBAのクラスメイトと一緒に起業することになりますが、思ったより大変でした。
その理由の1つは、日本で通常行われていることとは違い、保険が在宅医療をカバーしていませんから、手出しで全て払わなければいけなかったということです。医師が訪問していくと、1回で3万~4万円ほどかかかりますから、これを定期的には払える人は非常に少ないのです。
もう1つは、そうした保険制度が整っていないだけではなく、在宅医療自体、広まってないものですから、それを行う医師や看護師さんが少ないということです。もしくはその理解が病院側にもないということで、要するに在宅医療というものが文化としてまだまだ浸透していなかったのです。
したがって、われわれが「日本の地域包括ケアはいい」と思って始めても、ゼロから制度をつくるような話になり、大変だったのです。
結果として、われわれは看護師さんを雇用し、日本でいうところの「訪問看護ステーション」のようなものをつくりました。この看護師さんは、日本でいうところの「ケアマネージャー」、つまり訪問してアセスメントをし、プランを立てて、そしてさまざまな人をコーディネートする、といった役割を果たしています。
それから、24時間365日の訪問看護の提供を行っています。また、訪問薬剤師的な仕事もあり、訪問して残っている薬や副作用の確認を行ってきます。
もう一つ重要なことがあります。われわれが診ているようなアッパーミドルクラス以上の方たちの家にはだいたい、住み込みのメイドさんや「ドメスティックヘルパー」と呼ばれる人たちがいます。この人たちはもともと料理や掃除をするために住み込んでいるわけなので当然、介護を専門としているわけではありません。この人たちに日本的なヘルパーの教育を施しています。
われわれの看護師さんはこのようにマルチタスクですが、医師や、例えば介護の分野は外注をします。PT(physical therapist、理学療法士)さんやOT(occupational therapist、作業療法士)さんという人たちが外部と連携をして、必要なときに来てもらうということです。
ということで、最終的には日本的にさまざまな職種の人が家でサービスを提供するモデルをつくってきました。
●「CARES」というICTシステムの開発と提供
もう1つ、われわれが進めてきたのはICTシステムの開発と提供で、日本のものよりもある意味進んでいます。われわれがつくった「CARES」という仕組みには、大きく分けて3つの機能があります。
1つ目はいわゆるレコーディングです。これは、医師だけではなく看護師さんやPTさんなども訪問したときに行った内容を記録し、クラウド型ですのでその内容を入力するとすぐにアップされるというものです。
2つ目はオペレーションのマネジメントです。例えば、訪問する最適のルートができる、もしくは「こういう患者さんにはこういうスキルを持った看護師さん」ということを入力しておくと、ある程度マッチングをしてくれるというものです。他には KPI(Key Performance Indicator、重要業績評価指標)です。例えば、この看護師さんはどれくらいの訪問をしているかといったような経営的な数字も取ることができます。
3つ目は情報共有ツールです。これは、Facebookのようにグループをつくったり、動画や写真の画像などをアップしたりして、その情報を共有するといった仕組みです。
このCARESと呼ばれる仕組みは、われわれの中で使っているだけではなく、シンガポールの他の病院に導入してもらったり、最近では中国の上海や台湾などで導入をしてもらったりするなど、海外の展開も行っています。
また、CARESの上にいくつかのモジュールがあり、例えばロボットでいうと、クラウド型で移動できるようなロボットを試しています。われわれのコンセプトは、人とウェアラブルなデバイスとロボットを組み合わせたときに、「一番いい介護、医療はどういうもの...