●アメリカの医師はみな個人事業主
―― 先生、もう一つお聞きしたいのですが、アメリカの医師のシステムは、全員が個人事業主で、自分で看護師さんを入れてチームを組める、と。このあたりは、ものすごくコストを意識するようになりますよね。
堀江 コストを意識するということと、もう一つはチャージをすることです。全てがチャージですね。例えば、私がアメリカで医師のトレーニングしていた30年以上前の話ですが、腎臓移植の手術が終わって、麻酔が覚めたその患者が「自分を集中治療室に連れて行くな」と言うのですね。「俺は大丈夫だ(I’m just fine.)」と。それから、入院中は指導医(アテンディングドクター)というのですが、「お前は来なくてもいい」と。というのは、毎朝やってきて、回診して「Hi(ハイ)」というと100ドルチャージするわけですから。30年前で。
―― 30年前で100ドルですか。
堀江 1回「Hi」というと、100ドルです。僕はチャージしないのですが、「(堀江先生は)来なくてもいい。外来でお会いしましょう」と麻酔を覚めた瞬間に言うのです。このコスト感覚はすごい、と思った。
この間、「ニューヨークメモリアルスローンケタリング(がんセンター)」という、日本でいう順天堂病院と似ていますけど、ニューヨークで一番いいその病院に行ったところ、看護師さんだけで7種類いる。「私は退院調整だけやります」とか、「お薬をやります」とか、「点滴だけやります」など、それぞれの看護師さんが皆チャージするわけです。それが全て医療費の中に入ってきて、いい保険に入っている、つまり高い保険料を払っている場合には、皆そこにチャージしていく。保険料が竹の人は、マネージド・ケアで、「あなたの薬はこれです」「あなたの病院はここです」となっている。非常にそこの区別は大きいですね。
●常に結果が求められるアメリカの医師
堀江 また、アメリカの医師は一人一人が個人事業主なので、自分のチームを作っていて、例えば手術にしても慣れた看護師さんと行うので、まず速い。間違いも起こりにくい。非常に集約されたサービスで、しかもアウトカムをかなり精査されます。例えば、日本の場合は、ある程度の病院で数人の外科医にいると、もちろんトップの人が責任を持っていますが、少しずつトレーニングの一貫として「この部分は何々君やってください」と進めてしていきます。アメリカの場合は、「私はこの部分のこの手術をします。この部分が専門です」これを「Privilege」といいますけど、アウトカムが悪いと、次の病院との契約の話になったときに、「あなた、これのコストがかかっているから、なし(契約しない)」ということになる。これはプロ野球と同じ仕組みです。
そうすると、その中で、自分のチームを組んでいかないといけないし、自分の右腕になる人も、「この人からもらえる収入が少なくなるのであれば、私はこっちの方にいく」、ということも当然ある。ですから、医師のパフォーマンスが絶えず変化し得る、ステータスが変化し得る、ということですね。
―― なるほど。しかも、看護師も7つの階級がある。日本は、医師も一つの階級、看護師も一つの階級ですよね。
堀江 そうなんですね。
●画一的な日本の医師
堀江 少し脱線しますけど、今は厚生労働省が専門制度を新しく見直して、医師の配置にもつなげようという動きがあると思いますが、これも専門医というものしかない。そうすると、専門医になるための時間の中で、例えば女性の場合、お子さんが生まれて育てるとなっても、少し医療の現場から離れるという時間をあまり考えていない。しかし、いろんな専門医がいてもいいわけです。「私は腎臓が専門医です」「こっちはあまり自信がないけど、こっちはできます」と。実はこれが本当の専門医なのですね。
―― そうなると、だいぶ違いますよね。
堀江 そうなのです。それぞれが、画一のものとは別に、医師がそういうキャリアを意識していくというのは、本来は大事かなと思います。
●効率が悪い日本の医療現場
―― そういう意味で、日本の医療現場はものすごく効率が悪い。一日何千人も患者さんが来て、医師も看護師さんも、ものすごく疲弊している。疲弊しているわりに、利益が出ていない。ものすごく勤勉で真面目で、優秀な人たちが一生懸命やっているけれども、結果として赤字になってしまう。かつ患者に提供する医療サービスも、一生懸命やっているわりには、必ずしも最適パフォーマンスではないな、と。
堀江 おっしゃる通りですね。これも10年間で、ドキュメンテーションが非常に厳しくなってきている。それはいいことではあるのですけど、看護師にしても医師にしても、ドキュメントに費やす時間がものすごく長いのです。ですから、病院に行くと、看護師さんが皆パソコン...