●医療現場の犠牲のもと成り立つ保険制度
―― そもそも日本の医療費は、国際的に比較して安いのか、高いのか。そこはどのいうに見ればよいでしょうか。
堀江 それはGDPの中で見ますと、10パーセントを越えると高いということになっています。アメリカは圧倒的に高いのですが、OECD加盟国ではだいたい8パーセントくらい前後ですね。日本もその程度ですので、極端に高くはないのです。これは、一つにはわれわれ医療従事者(あるいは医師)が非常に少ない給料でがんばっていることで、人件費を抑えているという部分もあります。
―― お医者さんにしても、看護師さんにしても、圧倒的に長時間労働で安い賃金で我慢している、と。医療現場の犠牲のもとに今の保険制度はかなり成り立っているのかな、と思いますが。
堀江 そうですね。もともと1960年代の制度設計の段階では、医師の給料というのはどの国も非常に低くて、それは例えば中国やロシア(ソ連)などその当時の社会主義国、共産党国家も似ています。ですから、僕も大学に入学する時、「医学部にいく」と言ったら、父親がものすごく反対して、「医者と芸者と役者みたいなやくざの商売はやめてくれ」と言っていました。当時はそういう感覚があったと思うのですね。
●生産性向上が求められる医療現場
堀江 ただ、医師あるいは医療従事者の収入を上げるということには、賛同するという国民の方はおそらくほとんどいないでしょう。そうすると、労働時間の中で本当に重要な時間は何か、ということが問題になってきます。これまでにもお話ししましたが、形式的なドキュメンテーションに大きな時間を使わないとか、そういった方向性は一つあるのではないか、と思います。
―― 本当に大事なことに時間を割く、生産性を上げていく。そのために制度を見直す、ということが大きいのですね。
堀江 そうですね。今、医師の働き方改革といわれているのですが、調べてみると、月の残業時間が180時間とか、めちゃくちゃなケースも出てきます。ですから、そのあたりを精査していきながら、中身をいろいろ見直していく、ということが大事だと思いますね。
●参考になる北欧の医療モデル
―― 北欧の医療モデルが最近、ものすごくもてはやされています。先生からご覧になって当然いいところも悪いところも両面あると思いますけど、どのようにお考えになっていますか。
堀江 北欧の場合は、まず高負担ですよね。国民が負担する費用も非常に高いということと、人口が少ないということ。人口が少ないというのが、非常に行き届いたケアができるということですよね。
―― 小さいということが大きいのですね。
堀江 小さいモデルを日本で当てはめるのであれば、地方自治体にかなり大きな権限とお金を与えてシステムを作るということで、500万人~1000万人の間の人口の規模でそれぞれきちんとやるというのは、一つあるかもしれないですね。
―― 小さいと分かりやすいのですね。
●新たな仕組みが求められる日本の医療
堀江 そうすると、オールジャパン一律ではなくてもいいのです。東京は、1点30円ですと、この県は1点何円ですとか、あるいは地域によっても違います、と。もう少し多様性があってもいいかも分からないですね。
―― 多様性があった方がいろんな意味でやりやすくなるし、満足度も高くなる可能性があるということなのですね。
堀江 もちろん医療の一番重要なのは、救急医療ですよね。それに対しての備えというのは、おそらく全国一律であることが大事です。しかし、長期的な療養を要する病気に対して重要なのは、どういうマネージメントが必要か、ということです。今は医師不足ということもいわれていますけれど、医師不足なのは救急医療に対してなのか。救急であれば、極端な場合ヘリで運ぶとかがあるのですが、いわゆる普通のお医者さんは遠隔医療でいいだろうとか、いろんなシステムがありますよね。
それから、アメリカの場合は、医師とフィジシャン・アシスタントがいます。「PA(Physician Assistant)」というのですけど、彼らは4年制の大学を出て相当な知識がある人がサポートする。また、彼らはチャージしないのですね。
―― PAはチャージしないのですね。
堀江 彼らは給料でやっているわけです。そうすると、何回も登場してきたりするわけですね。
―― それは面白いですね。うまく仕組みをつくっていますよね。
堀江 ナースにしても、大学院を出たら、いいか悪いかはとにかく、年収1000万円くらいの方もいます。
―― 経験値がいっぱいあるから、極めてプラグマティズムで現実的ですよね。
●レセプトが全国で透明化していないことが医療の無駄
堀江 おっしゃる通りです。また、先ほどドキュメンテーションのお話をしました。入院医療に関して...