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終末医療を考える上で大事なコミュニティオーガニゼーション

世界と日本の医療~課題と未来(6)終末医療と在宅医療

情報・テキスト
堀江重郎 対談集 いのち――人はいかに生きるか
(堀江重郎著、かまくら春秋社)
終末期の死生観について、日本ではあまり議論されていないが、「人生の中で何をしたいのか」ということを考えることが、個人にとっても医療全体にとっても大切である。そこでシリーズ最終話では、終末医療について在宅医療などいろいろな実例を紹介しながらお話いただく。(全6話中第6話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:16:22
収録日:2019/09/17
追加日:2019/10/12
≪全文≫

●入院に対して日本人とアメリカ人では根本的な考え方が違う


―― 山折哲雄先生との対談(『堀江重郎対談集 いのち――人はいかに生きるか』かまくら春秋社)の中で死生観について、どのような終末を迎えるのかという話がありました。お医者さんの世界では、患者が死んでしまったら負けだ、という考えもあるし、一人の人間としてこの辺で人生がおしまいになった方が幸せなのではないか、というような議論もあります。日本はお医者さんというよりも、宗教学者とか哲学者、倫理学者がこの問題を避けてきたので、ここの部分は深まっていませんよね。

堀江 そうですね。日本人は親方日の丸じゃないですけど、いざとなったらどうしても誰かに「負んぶに抱っこ」という部分がありますよね。アメリカ人が日本人と決定的に違うのは、彼らは自立や自由とか、そういうことをプライオリティとして持つので、なかなか入院したがらないという点ですね。

―― なかなか入院したがらないのですね。

堀江 入院するということは、拘束されるということですから。これは日本と全く違います。

 例えば抗がん剤の治療にしても、それで完治するということは、現在のところなかなかないわけですね。ですから、最初ではないですけど、どこかの段階で少しずつ話しながら、「人生の中で何をしたいのか」ということを考えていくことが大事だと思うんですね。

―― なるほど。「人生の中で何をしたいのか」ということが大事なのですね。

堀江 そこのところがやっぱりなかなかディスカッションされていません。


●医学では証明できないけれども大事なこと


堀江 僕のところに患者さんがお子さんと一緒に来て、「余命はあと何年ですか」と聞かれることがあるのですよね。僕は、「余命は何年」ということは絶対に言わないんですね。呪いのようになっちゃうので。そこで、お子さんには「今日から親孝行してください」と言います。「分かりました。親孝行します」と言われるのですけど、だいたい1ヶ月ほどすると、抗がん剤を受けているお父さんもお子さんも、抗がん剤を受けていることが日常化しちゃうのですね。これが日常化しなくなってくると、「パトス」(情念、情熱など感情的な精神のこと)といいますが、逆にお父さんも、「よし俺も(なんとかしなくちゃ)」という気持ちになる。ですから、たまにあれだけあったがんが消えてしまった、という人がいるのですけども、パトス化すると、そういうことも起こり得るということですね。

―― パトス化すると、そういうことも起こり得るんですね。

堀江 何かのケミストリーですかね。私の経験ですが、がん専門病院で余命を「3ヶ月」と言われて、泣きながら私のところに来た人がいました。確かに3ヶ月と言ってもおかしくない状態で、「全身、痛い痛い」と言っていました。しょうがないから、とにかく入院して、研修医に「朝晩行って、さすってあげなさい」と。その方はおばあちゃんだったので、イケメンの人がさすっていたら、だいぶ調子良くなって、痛みも取れたというのです。

 そのお子さんは本当に親孝行の方で、お母さんと一緒に住んでいました。ただ、ご高齢ということもあるし、漢方薬を処方して、また「あなた、親孝行しなさい」と言われたので、いろんな面で親孝行していました。それから1年くらいして、ある日連絡があったので、私は「お亡くなりになったのかな」と思ったんですよ。そしたら「まだ元気です」と。「検査してほしい」と言うので、調べたら全部がんが消えていました。そういうことがあったのです。「終活」という言葉があるけれども、この人は面白い人で「何かしたいことないですか」と聞いたら、「私はとにかく今は生きたいんだ」と。「親孝行してくれるので親孝行してくれる限り、私は生きたい」と。そしたら、がんが治ったのです。

 やっぱりこういうことを話すと、これは医学の話ではないので、オカルトともいうべき話になってしまうのですけど、そういうことも大事ですね。


●消極的に最期を迎えないためのガイドライン作りが大事


―― 私の父親は76歳と9ヶ月で末期の肝臓がんといわれて、結局手術も抗がん剤も拒否して、患部を針などで手当てしてもらったぐらいでしたが、結果的にその後3年くらい病院にいかずに生きて、倒れた時に救急車の中で亡くなりました。手術も抗がん剤も拒否した理由は、今まで楽しかったから十分だ、と。今から痛い思いをするよりも、半年でも1年でもこの状態だったら、これでいい、と。そういう生き方でしたから、ある意味、勉強になりました。こういう在り方もありかなと。

堀江 そこのところは現代医学の一番弱いところですよね。

―― 一方で、人工透析は1人あたり年間600万円ほどかかる場合もある。この部分の医療費は全部でだいたい2兆円。けれども、この予...
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