●ニューヨークの連邦準備銀行にあった金の延べ棒の意義
こういった中、金本位制、金ドル本位制がどのように機能していたかを知る上で、非常に面白いのは、ピーター・バーンスタインという人が書いた『ゴールド:金と人間の文明史』という本です。この本は、金というものが人間生活にどういう影響を与えてきたかを知る上で非常に優れた本なので、関心がある方はぜひとも読んでいただければと思います。かなり分厚い本ですが、金について知る上では非常にいい本です。
ピーター・バーンスタインはもともとニューヨーク連銀に勤務していた人で、その時に次のような経験をしているようです。少し読んでみます。
「1940年に、ニューヨークの金融街にある連邦準備銀行の調査部で働きだしたころ、上司が地下5階の金庫室に保管してある金庫を見学させてくれた。金は巨大な戸棚に保管されていた。金の延べ棒が天井まで積まれていた。金庫内の金の総額が20億ドル」
ただ、ここに置かれている金は、実はアメリカ合衆国のものではなく、フランス、イギリス、スイスといった国々がニューヨーク連邦準備銀行に金を保管していたということです。
金の延べ棒に、フランスやイギリス、スイスといった所有している国の印章を刻印していました。目印は「イヤーマーク」といわれていたようですが、ある国が別な国に支払いをする場合には、イヤーマークをつけ替えることで、金を国境や海を越えて移動させるコストや手間を省略します。それによって、金の所有がある国からある国へと、例えばフランスからスイスへと変わっていったわけです。つまり、ここで金の所有権の移転をもって、決済が行われていたということです。棚から棚へ、わずか数メートル移動するだけで、国家間の富が移転していたのですが、各国の国民はこの政府が保有している金を見ることは決してありませんでした。
ところで、ここがバーンスタインの非常に面白いところですが、ニューヨーク連銀がハドソン川の近くにあったこともあり、そのハドソン川に金が沈んでしまったとしても、帳簿の記録が続いていたならば、金塊が棚から棚へ移されたときと同じように、各国への経済と金融への影響はそのまま続いていただろうということを、彼は言っています。
ですから、金は「実はそこにある」という想定さえあれば、なくたっていいのではないかといっているわけです。このあたりは、金本位制を考える上でも非常に面白いことですが、それと同時に、通貨が何によって価値を担保させているのか、本当はよく分からないということを、非常に的確に示している例ではないかと思っています。
●アメリカは金本位制からの離脱を図っていった
ただ、世界経済の拡大に伴って、金が不足する、特にアメリカの経常赤字が拡大していくことになります。アメリカは次第に金本位制からの撤退、離脱を図っていくわけですが、最終的にはこれまでもお話ししている1971年のニクソンショック、すなわち金ドル交換停止に至るわけですが、1つのポイントは、実は1971年に金ドル交換停止を行う前から、アメリカ国内の個人あるいは企業は、ドル紙幣の金への兌換請求をできなくなっていたということです。
1933~1934年の緊急銀行法や金準備法によって、アメリカの個人あるいは企業は当時、保有している金を、アメリカ財務省に引き渡す義務が課せられました。これによって、金を保有できなくなったのです。つまり、アメリカの国内に住んでいる居住者は、金への兌換請求ができなくなり、1965年の銀行準備に対するゴールド・カバーを廃止するということを経て、1971年の金ドル交換停止に至りました。
この間のことは何であったかというと、海外の政府、中央銀行だけに対して、ドル紙幣と金を交換するという約束事があったわけですが、それを最終的にうちやめたのが、ニクソンショックであったといっていいと思います。
●『オズの魔法使い』は金本位制の重要性を象徴する
金本位制が非常に重要なものだったことを象徴する本に、『オズの魔法使い』があります。おそらく多くの人が、『オズの魔法使い』という本のタイトルぐらいはご存じだと思います。
これは、カンザスの平原に、おじさんとおばさんと住んでいたドロシーという女の子が、竜巻に飛ばされて家ごとオズの国に飛ばされるという物語です。オズの国に飛ばされた後、カンザスに帰りたい、カンザスに帰りたいということで、さまざまな冒険をするのですが、重要なポイントは何かというと、ドロシーがカンザスからオズの国に飛ばされてきた時、最初に「マンチキン」という人たちがいる国に落ちたことです。
その国に竜巻に飛ばされた家がドーンと落ちた時に、東の悪い...