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新潟市が農業体験施設アグリパークを作った理由

新潟発わくわく教育ファームの推進(1)取り組みの背景

伊藤充
新潟青陵大学 福祉心理学特任教授
情報・テキスト
新潟が、国内でも有数の農業が盛んな場所であることはよく知られている。そんな新潟でさらに持続可能な農業の発展を目指すべく、「新潟発わくわく教育ファーム」という取り組みを進めている。その背景には、農業への無理解に対する懸念があった。(全3話中第1話)
時間:08:03
収録日:2018/07/05
追加日:2019/03/30
≪全文≫

●「新潟発 わくわく教育ファーム」の取り組み


 新潟大学の伊藤充です。以前、新潟市教育委員会で、教育ファームを統括していました。それでは、新潟市で進めている「新潟発 わくわく教育ファーム」の取組を説明します。

 はじめに、映像をご覧ください。

 今ご覧いただいたのは、新潟市のアグリパークで行われている農業体験学習の様子です。アグリパークは、2014年(平成26年)に新潟市が全国初の公立教育ファームとして建設したものです。

 民間の指定管理者が運営し、専門のインストラクターを配置して、官民連携で取り組んでいます。

 農業体験は多くの自治体で取り組まれていますが、新潟市では、なぜこのような施設を公設で整備したのでしょうか。

 この写真をご覧ください。

 これは、先ほどの映像で、搾乳体験をした「ホルスタイン」という種類の牛です。

次に、こちらの写真をご覧ください。

 先ほどの牛と違って、毛の色が茶色の牛で「ジャージー牛」という種類です。さて、ここで皆さまに問題です。この「ジャージー牛」からは、どんな牛乳がとれるでしょうか?

 新潟のある大学生に同じ質問をしたところ、「コーヒー牛乳」に手を挙げた学生が何人かいました。冗談のような話ですが、本当にあった話です。


●農業体験施設アグリパークを創った二つの理由


 この話が、新潟市が公設の農業体験施設アグリパークを創った二つの理由を、代弁しています。

 まず一つ目の理由です。大学生ですから、学力面は高いと思われます。しかし、ちゃんとした知識と体験に基づいていないから、誤ったことを答えていても、何とも思わない。

 これではいけない。これからの時代をよりよく生き抜くためには、知識に基づいた体験、体験に基づいた知識を結び付けて、正しい答えを出したり、新しい答えを創り出したりしていく確かな学力が必要であり、それを子どもたちに育まなければならないのです。

 新潟市の特徴的な産業である農業こそ、子どもに確かな学力を育む教材として、最適です。アグリパークには、それを実現できる教育が期待されています。

 次に、二つ目の理由です。視聴者の皆さまは、新潟市に対して、どんなイメージをお持ちでしょうか。

 こちらは、全国の市町村別の米の収穫量です。新潟市は2位を2倍近く引き離して、全国第1位です。

 また、農業産出額は全国4位の他、花の出荷量や食料自給率など、全国的にも高い順位を誇っています。このように、新潟市は農業が盛んであり、農業を大切な産業として育てていこうとしています。

 新潟市が、今後も持続可能な農業を推進するためには、生産者の努力はもちろんですが、消費者である市民、特に子どもたちが農業の素晴らしさに気づき、ふるさとの農業を応援しようとする気持ちを持つことが大切です。

 先ほど、茶色の毛の牛からコーヒー牛乳が出ると答えた学生のような消費者が増えたのでは、新潟の農業の持続可能な発展は望めません。

 このような背景があって、新潟市は公立のアグリパークを建設し、生きた農業を教材として、食育・農業体験学習を進めようと考えたのです。


●フランスと日本国内の施設を調査し、新潟市らしい教育ファーム創設へ


 私たちは、この計画を進めるため、先進地のフランスに行き、多くのことを学びました。
フランスのナント市は、新潟市の姉妹都市です。フランスも農業、食育を大切にしており、ナント市の教育ファームで農業体験学習が行われていました。

 しかし、そのままの形では、新潟に取り入れることはできませんでした。日本とフランスの農業の違いや、それぞれの国の農業をめぐる課題の違いがあったからです。

 そのため、フランスの教育ファームを参考にしつつも、日本国内で農業体験を実施している施設も調査していきました。

 さらに、新潟市の農業の実態や特徴を明確しながら、新潟市らしい「新潟発わくわく教育ファーム」を創っていったのです。
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