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ブランド力を高めるために「自社の強み」を徹底的に聞け

営業から考える企業戦略(1)成功するブランド戦略とは?

田村潤
元キリンビール株式会社代表取締役副社長/100年プランニング代表
情報・テキスト
キリンビールで副社長兼営業本部長として指揮を執り、2009年にシェアの首位奪回を成し遂げた田村潤氏に、営業の立場から経営戦略をいかに考えるべきかを聞く。第1話はブランド戦略の極意についてである。キリンビールは「大ブランド」ではあるが、アサヒビールの「スーパードライ」に圧倒された時期は、これまでの強みがまったく生かせなくなり、どんどんブランド力が落ちていった。その最も苦しい時期に高知支店長となった田村潤氏。そこから、キリンビールは見事にブランド力を回復させたわけだが、そのポイントはどこにあったのか。(全6話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:12:56
収録日:2020/09/25
追加日:2021/07/12
タグ:
≪全文≫

●本当に大切なのは「浮動票」ではなく「基礎票」


―― ブランド力についてお聞きします。キリンビールはすでに大ブランドですから、他の企業の方から見ると「ブランド力については問題ない」と思われていることでしょう。とは言え、田村先生が高知支店に行かれた時は、大企業が一気に負けてしまった局面で、それはそれで独特の辛い局面もあったと思います。そのご経験からすると、「ブランド力を上げる」とひと口でいいますが、どうしたらいいのか。これについては、どのようにお考えでしょうか。

田村 現場を回っていて気が付いたのですが、“基礎票”が大事だと思いました。選挙のときにもありますね。ビールの世界には、多くのヘビードリンカーがいます。1日に缶ビール2、3本飲んでいると、十分ヘビードリンカーです、日本の場合ですが。この構成比が、大体7、8割あったのです。

―― 例えば、キリンラガービールが100本売れたとしたら、70本はヘビードリンカーの方々が飲んでいるというイメージですね。

田村 そうです。残りの2割ほどが“浮動票”です。この浮動票は、頻繁に銘柄が変わるのです。新商品が出たり、値段が安かったり、広告を打ったりすると、浮動票は頻繁に銘柄が変わっている。ただ、本当に大事なのは“基礎票”です。教科書にはよく「ロイヤルユーザー」と書かれてあるのですが、ここが大事だと分かりました。実はこの基礎票が、流れを決めているのです。

 ところが、キリンもそうだったのですが、どこのビールメーカーも、この大事な基礎票の領域には、何も手を付けていなかったのです。

 企業の活動を効率化させようとすると、インプットとアウトプットの関係を考えます。浮動票は、価格を安くしたり新商品を出したりといった手を打つと、すぐに変わる。ビールメーカーの戦いはこれまで、この2割の浮動票の奪い合いをしていました。値段を安くするとすぐに売れるので、効率的なのです。基礎票はロイヤルユーザーなので、値段を安くしても、広告を多く打っても、売上は変わりません。ここには手を付けていなかった。

 ですが、理念からいうと、やはりここ(基礎票)が大事なのです。ただ、ここは頑固者なのです。いろいろ手を打っても変わらない。ですが、ここから逃げるわけにいきません。

 基礎票の方々は頑固者である理由を考えると、やはりその人の心の中に、何かが蓄積されているのです。お客様はあるときブランドスイッチしますから、キリンも「キリンビールは高知のお客様を大事にしていく」というメッセージを蓄積させていこうと思いました。やったのは、この作業だったのです。そうすると、あるときにブランドスイッチはする、と。これが非常に大きかったです。いったんキリンビールに変わってくれると、それがもう基礎票になるのです。

 浮動票の戦いは、非常にしんどいものです。しょっちゅう不安になるし、他社が安売りしたら、こちらも対抗しなければ、やられてしまう。だから、基礎票をずっと固めていきました。

 実は、一番難しいところにすごくおいしい話がある。だからこれは、やりやすいか、やりにくいかということではなく、挑戦していくものなのです。そのためには、やはり理念が要る。「何のためにキリンビールが存在するのか」という理念に向かっていく。すると、何か困難があっても、それを乗り越えようという知恵が出てくるのです。どの業界を見ても、そういったことが言えます。

―― はい。


●「弱みの補強」をすると失敗する


田村 もう一つ言えば、ブランド力を上げるためには「強みの強化」が必要となります。私たちもそうでしたが、会社でよく「課題の発見」と言われるでしょう。そこで、どこに課題があるかを調査すると、「弱み」が挙げられてきます。「こういう理由でキリンが嫌だ」などとよく言われるのです。そこで、つい「弱点の補強」に入ってしまう。

 そのため、「キリンのラガービールは苦いから嫌だ」と聞き、苦くないラガーにしてしまった。アサヒビールに抜かれそうなときに、そのような調査が出たため、ラガーの苦さを「弱み」として捉えてしまった。そして「弱みの補強」をして、失敗したのです。

 でも、お客様に聞いていると、求められているのは「強みの強化」だとよく分かりました。なぜなら、「キリンらしくなってくれ」と皆が言うのです。「その会社らしくなってくれ」と言われるはずです。なぜなら、その会社の強みに会社の存在意味があったからです。その意味があったから、お客様との関係が成立していたのです。だから理屈から言えば、お客様との関係を強化するためには「強みの強化」が必要です。

 だから本社でやったのは、「ラガービールが苦いから嫌だという人がいる。これは、この苦さの良さが分かっていないからだ。この苦さこそが素晴らしいのだか...
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