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「営業はコスト」と捉えると失敗する。価値を生む源泉だ

営業から考える企業戦略(4)営業はコストではない

田村潤
元キリンビール株式会社代表取締役副社長/100年プランニング代表
情報・テキスト
昨今、日本企業の中で「営業はコスト」として軽視される傾向がある。しかし、これは明確に間違いである。なぜなら、営業はイノベーションの源泉だからだ。そのためには、営業における基本の徹底として、「営業の基本」のレベルを「断トツなものにする」というイメージが必要だと田村氏は語る。それはどういうことなのか。営業が企業の中でいかに重要な役割を果たすものかという本質に迫る。(全6話中第4話)
※インタビュアー:川上達史(テンミッツTV編集長)
時間:07:44
収録日:2020/09/25
追加日:2021/08/02
≪全文≫

●営業はイノベーションの源泉となる


―― 続いて、少し大きな視点で、いわゆる企業戦略論的な部分をお聞きします。まずは、これまで聞いてきたことにも通底しますが、営業戦略、営業の役割をどのように考えるべきか。これについてはご経験上、いかがでしょうか。

田村 今、日本の企業では、営業が「コスト」として軽視されている傾向があります。ですが、営業には、顧客との関係性の中で、企業としてのいろいろなイノベーションの源泉があったのです。

―― まさに、市場の動態的な変化を察知するセンサー的な役割があると。

田村 そうです。それと、やる気というのでしょうか。フィギュアスケートの羽生結弦選手が国民栄誉賞を受賞した際のコメントで、多くの人が自分に共感をしてくれたという趣旨のことをおっしゃっていました。それに対して、自分は最高の演技をしようと思い、賞を取ることができ、そのことが多くの人にパワーを与えた。そうすると、また多くの人から自分に、共感の大きな力がやってきた。だから、これからも自分は最高の演技をし続ける。こういった内容の話でした。

 これはわれわれ企業人でも、この共感が起きてきたのです。共感のやり取りの中に、人間が本来持っている、すごいパワーが起きてきた。これはやはり営業なのです。営業は特に、対外との関係がありますから。そのような中で、人間性が変わってきました。

 よく、「キリンビールの人は、高知支店の人は、卑しくないね」と言われました。筑波大学名誉教授の村上和雄さんが「人間というものは、自分のエゴのためではなく、誰かのため、お客様のため、人のために生きていると、その人の持っている良い遺伝子がスイッチオンして、悪い遺伝子がスイッチオフする」と言われていましたが、高知支店のメンバーを見ていると、まさにそのような感じでした。人間とはそういうものなのでしょう。膨大な遺伝子がある中で、誰かにためにやって、喜んでもらってやっているうちに、良い遺伝子がスイッチオンして、人間性が変わってきた。これは、営業ならではだと思います。


●「基本の徹底」で仕事を身体化させる


田村 ただ、うまい話だけではありません。やはり営業にも「基本」がありますから、「基本の徹底」は非常に大事だと思います。

―― 営業における基本の徹底とは、例えばどういうイメージですか。

田村 わりと簡単です。通常は「得意先を回ること」と言われますが、普通に回るというレベルではなく、その基本のレベルを「断トツなものにする」というイメージが必要だと思います。

―― 例えば「得意先を回ること」については、それを断トツに、ということですね。

田村 そこまでやるのか、というレベルです。どの会社も、「基本の徹底」「凡事の徹底」などはあります。なるべく余計なことをさせないで、このレベルを圧倒的に上げていく。「お前の会社はそこまでやるのか」というレベルです。そうすると、仕事が身体化されていくのです。

―― なるほど。ということは、キリンビールであれば、キリンビールの営業マン全員の基本を上げるというイメージですか。高知支店であれば、高知支店全員のレベルを上げる、と。

田村 そういうことです。そうなると、よく回るようになるのです。

 名古屋地区で、すごい勢いで回ったチームがありました。そのメンバーが、「回っているうちに、相手の顔一つで何を考えているのか、この得意先に見込みがあるのかないのかなどが、全て分かるようになった」と言っていました。人間は頭で考えて体に指示するものだと思っていましたが、体で情報をキャッチして体で感じ取ることができるのです。つまり、精神と肉体は分けるのではなく、「頭と肉体は一つだ」ということです。こちらのほうがピンときます。

 メンバー全員がよく、「量が質を生む」と言っていました。それまでは、まずクオリティ重視で、「良い戦略、良いプランを考えろ」と言っていた。ですが、良いプランを考えるには、やはり量が要ります。とにかく量を回っているうちに、分かってくるのです。

 通常の2倍から3倍は必要で、1.5倍ではダメだと言っていましたね。2倍から3倍回っていると、体が分かってくる。そうすると、後が楽になる。分かってしまうから、後はそれほど営業先を訪問しなくても済むようになるという分水嶺があるのです。戦略とは別に、そこまでいく必要があると思います。「基礎体力」といいますか。

―― 基礎体力で達人の域に達する。例えば、少年野球と高校野球でもレベル違うでしょうし、高校野球とプロ野球でもレベルが違いますが、そのくらいに歴然たる差をつけていくイメージでしょうか。

田村 そのような感じです。ただ、これは難しいことでも何でもありませんでした。なぜなら、「やれ」と命令したところで、社員にとって...
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