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シェア軽視の高付加価値経営や不利益部門の撤退がダメな理由

営業から考える企業戦略(5)切り捨てる経営の大失敗

田村潤
元キリンビール株式会社代表取締役副社長/100年プランニング代表
情報・テキスト
日本企業の弱体化の原因はどこにあるのか。たとえば一時、「これから日本は低価格帯の商品は途上国に任せて、高付加価値経営を目指すべきだ」という議論が流行った。あるいは、「不採算部門は切り捨てるべきだ」という議論も盛んに行われた。その結果、現出したのは、すべてのジャンルで負けていく姿ではなかったか。田村氏は、「それは、理念が落とし込まれていなかったからだ」と喝破する。それはどのようなことなのか。(全6話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:13:37
収録日:2020/09/25
追加日:2021/08/09
≪全文≫

●「日本は高付加価値経営だ」という戦略は、なぜ失敗したのか


―― もう一つ、日本企業の戦略としてお聞きします。今、世界的に日本企業が、これまでお家芸といわれていた分野でシェアを奪われるといったことが見られます。その一つの原因になるのか、日本では一時期、いわゆる「高付加価値経営」という議論が流行りました。これから韓国なり中国なり、次々と発展してくる国々が、これまで日本が得意としてきた低価格の製品を作るようになるので、日本は間に合わない。低価格の製品はそうした国々に譲ってしまい、日本はより高付加価値な商品を売って、道を切り開いていくのだ、というものです。

 調べてみると、例えば1992年の松下電器の経営方針発表会で高付加価値経営が謳われ、「松下電器が水道哲学を捨てた」などと日本経済新聞にも書かれました。ただ、ふり返ってみると、一番シェアの多い安い製品をやらないと決めたために、日本企業が弱体化していったのではないでしょうか。

田村 それはそうです。安い価格の商品を安く作るということに、挑戦しなければいけなかった。松下幸之助さんの理念である「水道哲学」は、日本だけではなく、世界中の人々に必要とされているものを提供するというものです。ですから、安いモノが必要とされているところに安く作って提供し、そこに住む人々を幸せにするという理念を捨てたのです。そこで取り組みやすい分野、得意な分野だけを扱い、あまり儲かりそうもない分野は切り捨てる。それによって、企業体質が弱くなりましたね。なぜなら安く作るという技術を諦めてしまったのですから。これは、かなり致命的です。

―― そうすると価格競争に負けるのは当たり前の話ですよね。

田村 そうです。だから、理念を形骸化させたということに尽きるのではないでしょうか。


●「徹底的に実行」しないと、戦略の正否すらわからない


田村 シェアはやはり大事だと思うのです。私は「数値より理念が大切だ」と言っていました。ですが誰よりも数値を見ていたのは、私を含めた私の部下たちです。なぜなら、お客様に喜んでもらわなければいけない、信頼してもらわなければいけないわけです。信用して信頼してもらわないといけない。信頼されると、必ず数字が上がり、シェアが上がってきます。ですから、シェアが“健康診断”の最も重要な指標なのです。

 ですから、頑張っていてもシェアが下がっているとしたら、自分たちの戦略に問題があるか、あるいは戦略は正しいのに行動しなかったからか。

―― なるほど。

田村 あるいは、逆なのか。あるいは、両方ともダメだったのか。企業というのは「徹底度」が大事です。どの業界も似たような競争をしています。ですから、決めたら「実行力」「徹底度」が大事です。

 徹底度がなぜ大事か。キリンもそうでしたが、うまくいかなかった場合、徹底して実行していなかったために、戦略が間違っているのかどうかが分からなかったのです。「戦略が間違っていて失敗した」のか、「戦略が正しくても実行しなかったからうまくいかなかった」のか。

―― なるほど。

田村 徹底的に実行するということによって、戦略が成功か失敗かが分かるのです。

―― 全力でやっているのなら、うまくいかなかったら戦略が間違っているのだ、と。

田村 そうです。それが中途半端で、ずっと失敗していました。ですから、徹底してやること、それによってシェアを上げていくことです。シェアが上がらなければ、理念が実現できないのですから。自分たちの行動に問題があるのかどうかは、数字に表れます。ですから皆、朝いちばんで数字をよく見ていました。こういう理由で、シェアは大事です。

 講演すると、よく次のような質問が出ます。「自分の会社は利益が大事だから、シェアを優先するのはおかしいのではないですか」と。確かにシェアを上げようとすると、お金を使うなど無理をすることになります。そうすると、利益が下がってしまうかもしれない。だから、シェアを上げようとせずに利益重視だというのです。

 ですが、これは違う。われわれは、お客様に喜んでもらおうと思ってやっている。そして、シェアが上がれば利益が上がると決まっています。シェアが下がって利益が上がるのは、一時的なものです。

―― 後は利益率という話もありますね。利益率が上がった、下がったということですね。

田村 われわれの給料は、「率」ではなく「額」でもらっているわけです。利益の金額です。

―― 延べの総額、どの利益が上がったかと。

田村 そう。なぜなら、パイが縮小して利益率が上がっても、利益の額が減ってしまったら、会社を維持できません。「シェアは理念に直結している。だからシェアにこだわらなければいけない」。これが、なかなか分からなかったのですね。

 です...
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