●「もっと高みに行くのだ」と挑戦する勇気
―― 会社の経営戦略についてですが、時代状況の変化や動きに、どう合わせていくか。ここは当然、時代も動いているので、それをどう見ていくかでしょう。これからの時代をどうやって生き抜くかを考えたときに、大事なポイントとしてどのような点をお考えでしょうか。
田村 今、大変化の時代です。やはり現在、自分たちの企業が、何のために存在しているのかということを問われていると思います。
―― はい。
田村 昨日と同じことをやっても、うまくいきません。そうすると、やはり「企業の存在意義を果たすこと」。「今だって果たしている」と言う方もいるでしょうが、でも「自分たちの会社は、こんなものではない、もっと高みに行くのだ」と思ってもらいたい。それには「勇気」が必要だと思いますが、ここをなんとか乗り越えてもらいたいと思います。なぜなら、そのほうが本人も従業員も幸せになるからです。
そうすると、やはり理念が大事だと思うのです。もちろん、命もお金も大事です。しかし、高知支店のメンバーも言っていたのですが、「命はもちろん大事です。でも、お客様との関係の中で、命より大事なものが出てきた」という感じがあるのです。
キリンビールを飲んで喜んでくれる。このビールを飲んで、いい1日を送ってもらえる。明日頑張ってもらえる。キリンの利益も大事だけど、それ以上に大事なのは自分たちの使命を果たすことなのだ、と。これを確立することだと思います。
これは精神的なものですよね。これを持つのが人間なのだ、と私は思います。命と金で右往左往するのではない。命も金も大事だけども、それより大事なものがあるというのが人間なのだ、と。これはやはり精神であり、世の中のために尽くすという大義です。現在の大変化の時代を乗り越えるエネルギーは、ここから出てくるのだと思います。
これに当たるものが企業理念なのです。企業は利益を出し続けなければいけませんから、お客さんからの支持や信頼を獲得し続けなければいけません。そのために、相手の立場に立って考えて、喜んでもらう。そこへ向かって活動していく。そうすると、お客様が喜んでくれる。すると、口で言わなくても、次第に「利他の精神」になってきます。日々の活動の中で、誰かのために役に立つ。これが、人間なのだと思います。
それを上位の概念にして、幸い企業理念があるのですから、その企業理念を自分が実現するという覚悟を持つこと。自分が行動して、この企業理念を実現するという勇気を持つこと。これが全てだと思います。そこから、変化へ挑戦するエネルギーが出てきます。
そのような精神が確立すると、人に波動を与えると思うのです。リモートワークはその波動の交流がないので、どうも新しいイノベーションも起きにくい。
―― 波動とは、何か伝わってくるものですね。
田村 ええ。人間が本来持っているパワーのようなものが波動として、周波数として相手に伝わって、それに共鳴していろいろなことが起きているのです。これがやはり人間だと思います。
AIの時代だから人間が要らなくなるという話ではなく、AIを使いこなせる、AIに指示を出せる人間は、こういった精神や魂の交流から生まれてくるのだと思います。そこには、利益よりも大事なものがある。
これはやはり「大義」だと思います。自分たちの会社の存在意味は、現在のこんなものではない、圧倒するのだ、と。その会社があって本当に良かったと思ってもらう。そこに心の置き場を変えること。これが全てだと思います。
そこでリベラルアーツは大事です。真善美といった、「人間ならでは」というものがあります。文学も、不条理な話ばかりでしょう。社会とは、そういうものなのです。ビジネスは、そういうものに向かっていくのです。これはAIでは無理ですよね。AIはパターンの分析などが得意ですから。
そういった本来の人間性を取り戻していく。そのためのリベラルアーツです。そこでいろいろな多様性を一人の人間が持つ。それによっていろいろな判断ができ、適切な手を打っていけるということだと思います。
―― 企業自身も、まさに、そういう場でなければいけないということですね。人間性を高めて、新しい価値観をどんどん生み出していくと。
田村 そうなると思います。本当に利益を追求しようと思うと、「顧客からの支持」や「新しい価値の創造」が必要ですから。そこに向かっていると、お客様との関係性の中で、人間が変わってきました。これは企業だからこそできることなのです。
●最初は誰か一人から、その一人が変わるとやがて日本も変えられる
―― マクロ的に見ると、「これからは定常経済です」「成長ばかり追うのはおかしい」といった議論がよくあります。脱成長経済と...