●インフラの効果は需要側面だけにあるのではない
今回は、「インフラを科学する」ということで、これからのインフラの在り方、そしてインフラの効果をどういう形で測定していくか、ということを考えてみたいと思います。
道路や鉄道、橋や空港など、インフラと呼ばれているものは、今までは公共事業の一つとして考えられてきました。公共事業を行うときは、ある種の景気対策にもなるといわれており、景気対策としてのインフラの建設であったり整備であったりということが、割と強調されてきたと思うのです。
ところが、実はインフラはそのような公共事業で需要を伸ばしていくという側面だけではなく、経済全体の生産性、場合によっては成長率といったものを上げていく効果があるのではないか、という点が強調したいポイントの一つです。
●インフラで総需要を増やし経済を活性化させる
もう少し詳しくお話しすると、そもそも何か公共事業を行って、道路や橋といったものを造ろうとすると、そのために働く人手が必要になります。それから、それらを建設するためには資材や材料が必要になってきます。そうすると、そこで雇用される人は、場合によると今まで仕事のなかった人がそこで働けるようになる、あるいは今までよりも高い給料で働けるようになる、ということが起こり得ます。その結果、その人たちが所得を増やして、それがその人たちの消費を増やす形につながっていきます。
あるいは、資材や原材料が必要になるとすれば、そういうものを提供する会社には、それだけの仕事(発注)が増えることになり、結果として会社としての売り上げが上がり、その会社で働いている人の賃金が増えたり、あるいはその会社に出資している人の所得が増えたりします。このようなことがあって、やはりここでも消費が増えるだろうと考えられます。それから、さまざまな設備投資が追加で必要になるかもしれないので、そうなると投資も増えるでしょう。
このようにインフラをつくろうとすることで、経済全体としての消費や投資などが、増えるのではないかと思われます。これが経済学でいうところの「総需要」、つまり経済全体の需要を増やす役割があるということです。この総需要を増やすという点で、インフラはいわゆる景気対策になると考えられてきたわけです。
確かに現実的にはこういう面があります。特に経済面で景気が落ち込んでいて、どちらかというと仕事を得られない人々が多いというようなときには、こういう仕事をつくり出す。あるいは、消費や投資が盛り上がらないときに、それらを盛り上げて経済を活性化させる。こういった役割がインフラにはあり、それが一般的には財政政策といわれているものの一つなのです。こういう財政政策として公共事業を行って、その結果、総需要を増やし、経済を活性化させて景気対策とする。こういう側面が、どちらかというと強調されていて、それに沿って公共事業が行われ、インフラが整備されてきたというのが、今までの歴史だったのです。
●需要を刺激するには、供給側の余地も重要
ところが、現実にはインフラをつくったり整備したりというときには、今のような総需要に影響を与えるということだけではなく、総需要の反対側である「総供給」、つまり経済のいろいろな製品や財やサービスを供給する能力を高めていくということに貢献し得るという面が強調されてきました。これが冒頭でお話ししたことになります。
いくらモノの需要が増えても、モノをつくる余地がなければ生産は増えませんし、結果的には、経済全体でいえばGDPは増えません。したがって、総需要を刺激して経済が盛り上がり、GDPが増えるというのは、供給の側に余裕がある、あるいは場合によると、遊休の供給力があってそれがフル活動していないときには、需要を刺激することで経済全体の供給が伸び、GDPが伸びる。このような形になっています。
ところが、供給に制限、限界があるとすれば、総需要をいくら増やしたところで、モノの供給は増えないので、GDPも増えない、成長もしないということになります。もちろん、これは車の両輪のようなもので、近年はやはり潜在的な成長力が十分に上がらないため、成長しないのではないかということになってきています。
実はこの供給力、もう少し詳しくいえば、供給から来る生産性、あるいは成長力といったものをどうやって上げていくか、こういうことが改めて日本経済にとっての大きな課題になってきているのです。その中で、インフラはやはり供給力を増やす上で役割を果たすのではないかということで、改めて最近、注目されるようになってきました。
●インフラは公共財として、まず民間の経済活動や投資を活性化する
俗にインフラは、経済学でいうところの「公共財」といわれて...