●毎年約100人が亡くなっている「雪」の災害
このシリーズでは、最近の雪と氷による災害(雪氷災害)の紹介とその基礎的な話、それから私が所属している雪氷防災研究センターの新しい取り組みについてお話をしていきます。
私は、国立研究開発法人防災科学技術研究所の雪氷防災研究センターでセンター長を務める上石です。どうぞよろしくお願いします。
雪による災害について、私どもの研究所では2000(平成12)年から統計を取っています。グラフ上では、亡くなった方の数を赤線、件数を青線で表しています。赤い線に注目していただくと、毎年100人近い方が亡くなる災害であることが分かります。
地震や火山による災害のように一瞬で起きる突発的なものではありませんが、ジャブのように影響が出る災害です。雪の多い年には200人以上の方が亡くなります。毎年こうした傾向が続いていくので、災害としては非常に大きなものであると思っています。
災害の件数全体にしても、多い年には1000件以上と、非常に多くなっています。推移を見るかぎり、最近が減っているわけでは決してありません。2017~18(平成29~30)年は209名の方が亡くなられているということで最近も多く、非常に大きな社会的な問題になりました。
●「暖冬少雪」といわれるが、実際の降雪はまだ多い?
私ども防災科学技術研究所の雪氷防災研究センターは、新潟県の長岡市と山形県の新庄市にあります。このグラフは、そこで1964(昭和39)年から測っている1年間に一番雪が積もった深さ(年最大積雪深)です。赤い線は長岡、青い線は新庄の観測値を年ごとに並べた記録になります。
これを見ていただくと、1987(昭和62)年ごろまでは雪が多く、その後平成になってからは雪の少ない時期が続きます。しかし、2005~06(平成17~18)年ごろから雪の量はむしろ多くなっていて、決して減少傾向に向かっているとはいえません。
「暖冬少雪」とよくいわれますが、決してそうではないのです。暖冬の年ももちろんあるのですが、雪の量は結構多いという年もよくあるのです。2011~2013(平成23~25)年は、長岡と新庄の両観測点でかなりの量の雪が降っており、2メートル以上を記録しています。
また、2018年の冬もやはり雪が多く、2メートルほど降っています。ということで、最近は結構雪が多いということがグラフからいえると思います。
●「天から送られた手紙」にふさわしい樹枝状の雪
ここからは、雪の災害を防ぐためにはどうしたらいいかについて基礎的なお話をしていきます。
「雪の性質と雪の災害」と題しましたが、北海道大学教授だった中谷宇吉郎氏の「雪は天から送られた手紙である」という言葉を引用してみました。
雪の結晶は千差万別です。ここに挙げたのは2015(平成27)年の2月、長岡の防災科学技術研究所雪氷防災研究センターで観測された雪の結晶です。非常にきれいな結晶で、上と下が六角形の雪印の形が上下に柱状にくっついた形になっています。このような雪も降ってくるということです。
これほどきれいな形で降ってくるのは結構珍しいことですが、先ほど言った「雪は天から送られた手紙である」という言葉を示すのが、中谷先生自身の作られた「中谷ダイヤグラム」です。横軸が雪の結晶ができるときの温度、縦軸が水蒸気の量で、雪の結晶の形はそれぞれの量によって決まってきます。
先ほどの結晶は、(下の方の赤丸で示した)角柱のものに、(上の方の赤丸で示した)角板や扇状の形がくっついたものです。
通常、例えば新潟県や北陸地方など日本海側で降る雪の形はこのような樹枝状のものが多く、マイナス15度ぐらいで水蒸気が非常に多いときに形成されます。ただし、降る雪は樹枝状の結晶であっても、落ちてくる途中でばらばらになったりくっついたりするので、結晶の形が一個一個にきれいに残ることは珍しいのです。ともあれ、水蒸気の量が多くマイナス15度ぐらいの上空でできるのが、日本海側の西高東低の冬型で降る雪の形状です。
●「南岸低気圧」がもたらす形の単純な雪
これに対して、最近分かってきたのが「南岸低気圧」です。南岸低気圧で降る雪は非常に温度が低く、水蒸気の量は樹枝状の結晶ができるより少なくなります。この場合、角柱や角板のように、比較的形の単純なものが低気圧性の雪として降ってくることが最近分かってきました。
後で紹介しますが、2014年には関東甲信地方で大雪が降り、2017年には栃木県の那須岳で雪崩事故があり、高校生7人と引率の教師の合計8人が亡くなりました。この時の原因として、...