●雪氷対策はハード・ソフトの両輪でやっていかないと追い付かない
ここまでは雪に関する基礎的な話と、雪氷災害に関する話をしてきました。今回は、実際の対策はどうしているかについて紹介していきます。
「雪害に対する備え」と題しましたが、日本の雪氷対策はハード対策だけではなくソフト対策も両方やっていかないと追い付かないところがあります。
例えば、道路では道路の除雪や屋根雪の対策、山間部では雪崩の対策、風通しのいい箇所では吹雪対策などが必要になってきます。それぞれについて、スノーシェッド、雪崩が起きないように斜面上に付ける予防柵、道路上に地下水をまく消雪パイプなどがあります。
雪の害があるところ全てにそれらを設置すると経済的に非常な負担になりますので、やはりソフト対策を併用していくことが基本になります。
●道路上の雪に対処する3つのハード
機械除雪には、まず降ったばかりの雪を飛ばす「新雪除雪」があります。除雪トラックによって、軽い新雪を飛ばしていくものです。
しかし、飛ばした雪も一旦脇に寄せると雪粒同士がくっつきやすくなって硬くなります。そのような雪は、ロータリー除雪車を用いる「拡幅除雪」の対象になります。狭くなった道路を広げていくような除雪です。このように、雪の性質が変わるにつれて、除雪の仕方も変わっていきます。
次に道路上に積もった雪を溶かす「消雪パイプ」です。この図は新潟県上越市の例で、外からくみ上げた水を温めて、また外にまいていくように工夫されています。
上越市は、写真のように非常に道路が狭く、先に言った除雪トラックを走らせることができません。そのため、道路上に地下水や温めた水をまくような消雪施設が必要になってきます。
●バケツ1杯の雪を溶かすのに必要なお湯の量は?
消雪(融雪)には、非常にお金やエネルギーが必要になってきます。例えば0度のざらめ雪500キログラムが入ったバケツ1杯を溶かすのには、10度のお湯でバケツ何杯分必要になるでしょうか。答えを明かすと、4杯必要になります。
バケツ1杯の雪を溶かすのに4倍ものお湯が必要になるため、それだけのお湯を用意するのにエネルギーもかかればお金もかかります。ですから、道路全てに消雪パイプを付けるようにはならず、重要なところに付けていく。また、道幅の狭いところに付けていくという優先順位ができてきます。
これは上越新幹線の例で、新幹線の線路上に温めた水をまいているのが左手に見えます。上越新幹線はこのように非常に苦労しながら冬季操業をしているということで、なかなか大変な労力がかかっています。
●地吹雪による視程障害や吹きだまりを防ぐ柵
吹雪への対策では、このように道路脇に柵を付けて、地吹雪により視程が悪くなるのを防いだり、吹きだまりを防いでいます。写真は、こちら(左手)から風が吹いてきて雪が流れていく場所ですが、ちょうどここに地吹雪を防ぐ柵が付いているので、ある程度視界は良好に保たれ、また吹きだまりもできていないのが確認できます。
このような地吹雪を防ぐための柵は、主に北海道や東北地方で、特に吹きさらしの強い、風が吹きつけるところに設置しています。ただ、これに関してもやはりなかなか全地点をカバーすることはできません。その分は、吹雪の予測やソフト対策などで何とかしようと考え、われわれも研究を進めているところです。
●那須岳雪崩事故の悲劇を繰り返さない
雪害の対策についてはお話しした通りですが、もう一度だけ雪害の話をさせていただきます。これは2017年、栃木県の那須岳で起きた雪崩で、高校生と教師の方が8人亡くなった例です。この雪崩の調査団の団長を私がさせていただき、いろいろ調べました。
まずは現地調査をして、それから解析を行います。そこで、調査で分かった結果に基づく対策などについては、地元の高校生や教師の方にもできるだけ普及させるよう、啓発普及活動なども行いました。
現地に行くと、まず研究所と同じように雪の断面を掘って、どういう雪があるかを調べました。写真は調べている時の状況です。
断面から分かったのは、...