●雪の性質と災害予測をつなぐ「雪氷災害イベントツリー」
近年の雪の災害について、数回にわたりお話ししてきました。集中的に降る、重たい雪が降る、首都圏のように普段雪が降らないところにも雪が降る、さらに着雪もしやすく、吹雪もある。また、雪が降っているときに地震が発生すると、雪崩のような複合災害も起こってくる。
近年の暖冬少雪といわれる中でもやはり雪は多く、問題点はいろいろとあります。こういうことを解決していくのが、私どもの研究課題であると認識しています。
さて、この図は「雪氷災害イベントツリー」といいます。雪は、降るときの気温や時間によっていろいろな性質が異なってきます。雪の性質がどのように変化するかをきちんと調べ上げ、最終的には災害の予測に結び付けようと、私どもの研究所では取り組みの最中です。
私どもの研究組織をご紹介した図です。長岡と新庄あわせて10数人のメンバーで、災害予測を中心とする研究を行っています。
●人工降雪装置や最新式分析装置で雪を分析・実験
山形県新庄には、人工的に雪を降らせる装置があります。雪の結晶を降らせるような実験施設としては世界最大のものを持っています。
これは、装置によって実際に雪が降っているところです。8畳ぐらいの床面積のところに雪を降らせて、いろいろな実験をしています。
前回の講義で、南岸低気圧が通ると雪崩が起こりやすいと話しました。では、どういうときにどういうところで雪崩が起こりやすいのか。そういうことも、実験や観測で割り出せるようになってきています。
それから、雪の内部がどういう構造になっているかについては、X線やCTなどの最新式装置を使って解明できるようになってきました。
これらにより、具体的には吹雪の予測や雪崩の予測、着雪の予測などもある程度出せるようになってきましたので、道路管理者などに情報を提供して実際の役に立ててもらう取り組みが始まっています。
●着雪への備えとして始まった「雪おろシグナル」
着雪については、今のような実験や観測に基づき、どういう気温やどういう風のときに雪が付きやすいかを基礎的に調べ、さらに面的に気象状況と合わせて予測をするということも行い始めています。
吹雪についても、どういう気温でどういう風のときに吹雪が起きやすいかが基礎的に分かってきました。それらを応用して、どこで吹雪によって視界が悪くなるかが面的に表せるようになってきました。また、そうした危険があるときには携帯電話(スマホ)などに情報を流すこともできるようになってきました。
また最近は、屋根雪がどういうときに積もり、どのぐらいの重さになるかについても測定をしています。
それから、面的に雪の重さがどういう分布なのかも最近出せるようになってきました。「雪おろシグナル」という名前のシステムとして、2018年新潟県で試行を始め、2019年は富山県と山形県にも拡大しています。
一般的に1平方メートルの荷重は300キロで設計されている建物が多いですが、このシステムを用いると、「荷重超過になった地点」が視覚的に分かるようになっています。
●情報の精度を上げ、サプライチェーンにも活用
今後の私どもの研究としては、今までお話ししたようにいろいろな課題があります。集中的に降るとか、重たい雪が降るとか、くっつきやすい雪が悪さをするとか、そういう情報の精度を上げていくために、AIやIoTなどの新しい技術も積極的に取り入れているところです。
こうしたデータを集めてGIS(地理情報システム)のソフト上で統合的に出すようにし、社会的な影響を受けやすいサプライチェーン関連の方などにも今後は活用していただけるようにしたいと考えています。
この他にもいろいろな課題があると思いますので、皆さんからの情報もお寄せいただければありがたいです。どういうところで雪が降った、どういう災害があった、雪のせいでこんな困ったことがあるなどという情報について、ぜひご提供いただきたいと思います。