●積もった雪は時間がたつにつれて質が変わっていく
第1回は降雪の話として、雪が降るときについてお話ししましたが、今回は雪が積もってからの積雪についてお話ししていきます。
私どもの研究所では、写真のように積もった雪を掘り、雪の内部を調べる作業を行っています。雪の質は時々刻々変わっていくからです。
顕微鏡写真ではこれほど変化しています。「新雪」という新しく降ったばかりの雪には、結晶の形がところどころ残っています。時間がたつにつれて「しまり雪」と呼ばれる状態に移行します。一個一個の雪の結晶が丸くなってきて、それがくっついたりする(焼結)のです。時間がたつにつれて、雪の形はだんだん単純になっていきます。その間さらに気温が上がったり、雨が降ってきて水が介在したりすると、「ざらめ雪」になります。さらに変化が進むと、周りに水が付いた湿った雪になってきます。
こうして雪の形が変わるにつれて、雪による災害も変わってきます。私どもでは、形の変化に伴う性質の変化を見極めるため、最初のスライドのように雪を掘り、雪の性質調査を頻繁に行っているのです。
●雪の質が変わっていくため災害予測も困難になる
これは、積雪の断面観測の様子です。雪を掘った断面に青いインクを加えると、雪の中にある層構造が見えてきます。基本は地層と同じで、下の方にいくにつれて古い雪、上の方にいくにつれて新しい雪になります。
ご覧いただいている断面では、下から25センチぐらいが「ざらめ雪」という非常に粒の大きな層です。真ん中当たりは「しまり雪」、一番上の方が「新雪」の層です。降ってくる雪には結晶の形が多く残っていて、形が複雑なので隙間が多く、空気を多く含みます。それが新雪ですが、しまり雪になると、結晶が丸みを帯びて、互いにくっつき合っていきます。
くっつき合うという特徴があると、その部分は雪崩が起きづらいことになります。また、新雪は降ったばかりで絡み合っていないため、風が吹くと吹雪になります。逆に、ざらめ雪では粒が大きくなるので、水分が入ると雪粒同士が離れやすくなります。そのような層では、地面との間で雪崩が起きることにつながっていきます。
このように雪の質が変わっていくところが、雪による災害の難しいところで、予測も困難になります。変質する雪の性質を知ることで、そこを解明しようと、私どもは研究を続けています。
●雪の性質は空気と氷の量の違いにより変わってくる
「雪の性質と雪氷災害」について、一枚の資料にまとめてみました。
降ったばかりの新雪は空気がほぼ90パーセント、氷が10パーセントでできていて、1立方メートル当たりの重さが約100キロです。しまり雪になると、同じ体積で重さは300~400キロ、つまり空気60~70パーセントと氷30~40パーセントになります。硬いざらめ雪は、1立方メートル当たり500キロという重さで、空気と氷が半分ずつを占めるようになっています。
実際には多少の水も入ってくるのですが、空気と氷の量の違いにより、雪は性質がいろいろ変わってくるということです。例えば、空気が90パーセントを占める新雪では空気の性質が前面に出てきます。熱や音を通しづらく(断熱性・遮音性)、軽いという特質があります。ざらめ雪やしまり雪では固体の性質が出てくるので重くなり、屋根の雪下ろしが大変になります。さらに「硬い」性質が出てくるので、雪の塊が落ちると大きな衝撃を伴うことになります。
雪の温度は0度かマイナスで、プラスになることはありません。もし雪に温度計を差し込んで測定値がプラスになれば、それは温度計の誤差です。
湿った雪は0度の雪ですが、水が介在してくるので、ものにくっつきやすくなり、「着雪」という現象を起こしやすくなります。また、雪粒同士がくっつきやすいので、落ちてきた屋根の雪に埋まると、動けなくなってしまいます。雪に埋まった鉄棒が曲がるようなことにもなります。0度ではないマイナスの雪には水が介在しないため、雪粒同士がくっつきづらく、吹雪が起きやすいような性質になります。
このように非常に変わりやすく、重さでいうと5倍も異なるということがあるため、雪の性質の変化に伴って雪氷災害の性質も変わってくるわけです。
●屋根に積もった雪が落ちてくるとどうなるか
ここで、屋根に積もった雪が落ちてくるとどうなるか、実験動画を見てみましょう。
これは、長岡にある防災科学技術研究所雪氷防災研究センターの建物の屋根の上から50センチ四方の雪の塊を落...