●火山噴火の予知技術は、現時点でまだ十分ではない
前回まで、さまざまな火山現象に伴う災害のお話をしてきました。それでは、こうした火山災害に対して、どのような防災対策を行っていけば良いのでしょうか。
噴火のエネルギーはものすごく大きいので、人間が制御することはできません。ですから、噴火が起こりそうだということを察知して、安全なところまで退避するということが身を守るための最大の方策です。
そのためにはまず、火山の噴火を予知する技術を磨く必要があります。いつ起こるかだけではなく、噴火が起こった後も、次々と変わり得る現象を予測することが必要です。そうしないと、いったん避難しても、いつ戻って良いかが分かりません。
こうした技術の発達が望まれるのですが、現在の科学技術の水準ではなかなか、現象や現象の推移を予期するまでには至っていません。特に現象の推移を見極めるのは、なかなか難しい状況です。そのため、噴火が始まった後にも観測装置を周辺部にたくさん設置して、何が起こるのかを観測する必要があります。
●ハザードマップや登山者の安全教育も重要である
次に、あらかじめできることとして、ハザードマップの作成が挙げられます。ハザードマップとは、ある火山が噴火したら、どの地域にどのような災害が起こるかを予測するものです。噴火が始まった際には、このハザードマップに従って、影響のないところまで退避することができます。また、これに従って避難計画を作成したり、避難訓練を行うことも必要です。
火山防災対策としての一番の問題は観光客や登山者の対策です。火山は大抵、風光明媚なところにあり、近くに温泉があるなど観光地にもなっています。つまり、住民だけが被害に遭うわけではなく、山頂近くにいる観光客や登山客が災害に遭う例も多いのです。それが御嶽山の事例や、2018年に草津の本白根山で突然の噴火が起こった際に自衛官が亡くなった事例でした。
そのため、観光客や登山者の安全教育を行ったり、噴火が始まる前後で、迅速に情報を伝達することが非常に重要となります。
土石流に関しては、桜島で行われているように、ある程度、二次災害に対応することができています。砂防ダムを造ったり、砂防堰堤を造ることで、制御しているのです。しかし、それ以外の一次的な火山災害については、現状ではあらかじめ対策することが難しく、活発化したら逃げるしかない状況です。
●ハザードマップによる複数の避難パターンで、状況別の対策を
ハザードマップの例を2つ、ここに載せました。左側にあるのは富士山の例です。富士山の真ん中付近の赤い部分は、この範囲であればどこからでも火口が開く可能性があるということを示しています。北西の方から開くかもしれないし、南東の方から開くかもしれません。どこから火口が開くかは、噴火が近付かないと分からないというのが、富士山の一つの特徴です。
この図は、火口ができる場所に応じて、溶岩流が流れ出したときに数時間以内で到達する場所はどこにあるのか、あるいは火口から飛んでくる大きな噴石の被害がどの範囲にまで及ぶのか、ということが示されています。こうした情報をしっかりと理解した上で山に近づくことが必要です。
右側にあるのは、箱根のハザードマップです。左の図にある四角い枠で囲った部分を拡大したものなので、非常に狭い範囲のものです。箱根でも、このようなハザードマップが用意されていて、噴火が起こったときにはどの地域まで逃げた方が良いかが想定されています。以前の災害の際にも、これに従って警戒区域の設定や観察路の閉鎖が行われました。
この図は、富士山で突然の噴火が生じた際、5合目から上の山頂付近からどのように逃げれば良いのかを示したものです。例えば、噴火による割れ目の出現で5合目まで向かう道路の通行ができなくなることもあり得ます。そうしたときにどのように退避するべきかを示したのが、図中の矢印です。幾つかの噴火パターンに沿って、こうした避難パターンが用意されているのです。ここで示したのはごく一部のみで、他にもたくさんのパターンがあります。山梨側と静岡側と両方で、こうした登山時の避難パターンが用意されているので、山に行くときにはこうしたものをきちんと参照していただきたいと思います。
これは山梨県が用意した、溶岩流が発生したときの避難計画です。この番号が付けられている「ライン」とは、周辺の地形を考慮した上で設定された、溶岩等が流下する範囲です。ラインとラインの間には尾根のような高い境...