●環境は3つの性質からなる
情報はおそらく、私たちを囲んでいるところにあると思います。ジェームズ・ギブソンは、「環境は大きく分けて3つの性質からなる」と言っています。1つは物質。これは異種の混淆物で、硬さや密度、粘性などがあるいわゆる物質です。スライドに写真がありますが、山もそうですし、橋も人の体や水自体も物質です。媒質というのは大体、空気が中心です。ただ、高い均質性を備えていて、無色で、無臭で、透明に近い、そういうところが情報の媒質になります。スライドでいうと、空気の中とか水の中などが媒質となります。
ギブソンの理論の非常に特徴的なところなのですが、物質と媒質のインターフェース(界面)にあるサーフェス(表面)にはいろいろなレイアウトがあります。そのレイアウトにものすごくたくさんのアフォーダンスがあるのです。ですから、エコロジカル(生態学的)な心理学で環境を考えるときには、物質と媒質とサーフェスのレイアウトの3つを考えようということになります。今回は媒質について考えます。
●媒質のアフォーダンス-移動すると知覚情報が変わる
水や空気にはいろいろなアフォーダンスがあるのですが、1つは抵抗なしにその中を動けるということです。水にはもちろん抵抗はありますが、物質の中を歩くことはできません。動物は媒質の中を移動するわけで、つまり媒質には移動のアフォーダンスがあるということになります。
媒質はほぼ透明で光を伝達するので、視覚を与えます。物から生じる振動や圧、物をぶつけると衝撃波が伝播するので、聴覚を与えます。それから、われわれの身体もそうですが、有機物からは非常に微小な化学物質が放散していて、その周りには匂いの雲ができています。そうやって木なども匂いを出しているわけです。そのような小さな雲があって、嗅覚を与えています。このように媒質のアフォーダンスは移動と知覚が中心となります。
重要な主張は、移動とは単にA地点からB地点に行くということではなく、移動すると視覚や聴覚や嗅覚の情報が変わるということです。ですから、動物が移動するというのは単なる場所を移すということではなく、情報を探索するというのがその目的なのです。
逆にいうと、動物の移動は情報によってガイドされている、レギュレート(規制)されているということになります。同じ距離を歩いても移動の経路によって、情報の伝わり方は違ってくるわけで、移動経路の情報はとてもユニークなのです。
●水中にもさまざまな情報がある
次に、水と空気の中にある情報について事例を示します。
ドイツのバルト海沿岸にあるロストック大学の海洋科学研究所では、「ハイドロダイナミック・パーセプション(hydrodynamic perception)」といって水生動物の水中での情報について随分と研究をしています。
これは、ニジマスに光を与えてどう動くかということを撮った映像です。ジェット1から3までジェット水流が3つ出る。これがニジマスの移動の特徴です。
この映像は水中に微細な粉をたくさんまいて撮ったのですが、この動き出しのパターンが数分続くようです。これが、ニジマスを食べる動物にとっての情報になるということが分かっています。
これは上からマンボウ、フグ、ピラニアになりますが、魚独特の流動立体痕跡というものがあり、5分は持続するそうです。ですから、それを食べる他の動物にとっては、このような痕跡があれば、餌となる魚がここにいたということが分かるわけです。水の中にはそういう流動物の痕跡があるということです。
これは面白い映像なのですが、ここにあるのはミニチュアの潜水艇で、それを研究者が動かしています。潜水艇が動いていく数秒後に、目隠しと耳栓をしているアザラシを発進させます。どのように動くか、潜水艇の動きと合わせてご覧になってください。
音もありましたが、お分かりになったでしょうか。まるでアザラシが潜水艇の航跡を正確になぞるように追っています。
これは、アザラシの口の周りに「洞毛(どうもう)」というひげがあって、その触感覚で水中にある潜水艇が残した航跡をたどって追いかけたという映像です。
●空気中の情報をさまざまな方法で知覚する
次に空気の中にある情報についてお話しします。