●胎児の「ジェネラル・ムーブメント」
身体ということについて、考えてみます。前回紹介した2冊目の『生態学的知覚システム』という本で、ジェームズ・ギブソンは身体のことを「知覚システム(perception system)」と呼んでいます。
それがどのようなものかについて、1つの事例からお話ししたいのですが、これは月齢が4カ月くらい、あるいはもう少し幼いかもしれませんが、胎児のエコー画像です。おなかの中の胎児の動きが映っています。分かりにくいのですが、子宮の中で頭部が下になっていて足が動いています。全身も動き始めました。頭はあまり動いていないのですが、首から下が横に揺れるような形で動いているのがお分かりになるでしょうか。これは典型的な胎児の動きで、受精後8週くらいからこういう動きをしているということが知られています。
この動きに、数年前からですから大分時間がたちますが、「ジェネラル・ムーブメント」と名前が付けられました。こうした動きは受精後2カ月くらいから始まります。これは反射的な動きでも、もちろん目的を持つ行為でもないのですが、あらゆる動きの原型として見られる一種の揺らしです。
この研究は日本でも随分行われているのですが、胎内で見られる全身横揺らしのような動きから、誕生後にさまざまな行為が芽生えてくるということが分かっています。例えば、誕生後月齢が4カ月で始まるものに手を伸ばす「リーチング」といわれる動きも、胎内の横揺らしから出てくるということが分かっています。
●身体にとって重要な動き~ダイナミック・タッチ
この振って揺らすことが身体にとって非常に重要な動きの1つだということが、だいぶ分かってきました。ではこれから「ダイナミック・タッチ」の研究についてお話しします。
モノに触れて知るための方法には、その表面を皮膚の表面でなぞるという「皮膚タッチ(キューテニアス・タッチ)」があります。表面をなでて、いろいろな繊維の触感を知ったりするようなことです。
もう1つは、モノ、あるいはモノの一部を持って振ることによって知るタッチです。これをギブソンは「ダイナミック・タッチ」と名付けました。こういう接触の仕方があるのです。フォークを持ったり、金づちを持ったり、棒やペン、本の一部を持ったりして、それを揺らすことで全体の大きさを知る。このようなことをダイナミック・タッチというのです。
●変化からあらわれる不変項が情報となる
棒の長さがダイナミック・タッチで分かるかどうかという実験があります。真ん中にいるのが被験者です。被験者の右側にはカーテンがあり、カーテンの向こう側で棒を持っているため、被験者に棒は見えません。そこで、棒を振ってもらい「先端はどこですか」と聞きます。被験者は、ジョイスティック(レバー操作で、カーソル等を移動させる装置)で先端と思われる位置までボード上を移動させます。このようにして被験者が知覚した先端の位置をデータとして得るのです。
この図は縦軸が報告された棒の長さを表しています。横軸が実際の棒の長さで、30センチメートルから120センチメートルの7種類の棒を使っているのですが、示されているようにあまり個人差はなく、非常によく棒の先端の位置を知覚できるということが実験によって分かっています。ただし、ぴったり当たるというよりは、ややオーバー気味に知覚するようです。
ダイナミック・タッチでは、どんなことを情報にして長さが分かるのでしょうか。長さ自体は、見ることも棒に触れることもできません。重さは、振るたびの速度(加速度)で変化します。振る力(トルク)も加速度で変化します。いずれにしても、これらは「一貫して(例えば長さが)分かる」ということを説明できません。
ギブソンは、不変なこと、不変項(invariant)が対象にはあり、それを知ることが知覚なのだと言いました。振ることによる筋肉や腱での刺激作用、動きによってトルクや重さが変化するわけですが、その変化の中で現れてくる不変項があります。自分の手の動き、トルクをろ過するかのようにして、対象についての情報が残る。つまり不変項は変化から現れるといっているのです。
●ダイナミック・タッチに重要な慣性モーメント
では、棒の長さを知る場合、何が情報になるかというと、慣性モーメントだということが分かっています。こ...