●北朝鮮問題は「北朝鮮への軍事攻撃」では解決しない
―― 次に、地域的な危機としての朝鮮半島についてお伺いします。とくに韓国の場合は、政権が代わるとガラリと変わりますし、非常に動きが読みづらい国です。このリスクを日本としてどう考えるべきでしょうか。
中西 朝鮮半島についてはっきりしているのは、北朝鮮の問題の解決策は、ある意味で1つしかないということです。
2017年には、核実験危機がありました。日本国内では、これによって米軍による北朝鮮攻撃がなされ、米朝戦争が開始されるのではないかという雰囲気が数カ月続きました。東京の地下鉄が止まるという騒ぎにもなりました。確かに米朝戦争になると、北朝鮮という国がなくなるので、理論上の解決にはなります。しかし、そんなことはできるはずがありません。アメリカが北朝鮮のどこかの基地を攻撃したら、やはりソウル近郊の38度線以南の人口密集地帯で、少なく見ても数十万から100万の死者が出ます。そんな戦争に韓国がゴーサインを出すはずがありません。韓国が身体を張って反対するような戦争に、アメリカが訴えられるはずがありませんね。
ですから、これは机上の議論か、ある意味の戦略的コミュニケーション、つまり脅し戦術にすぎません。最初からこれはエンプティ・スレッドで、かなり底が見えていました。
●「話し合いによる解決」、先に進めることが困難である
中西 それでは解決策は他にあるのでしょうか。2つ目の解決策として考えられるのは、トランプ氏が去年(2018年)採った解決策です。つまり北朝鮮が核兵器を持ったままでも、話し合いをするというものです。首脳会談まで2回も行ってしまいました。これには選挙戦略もあり、話がぶれてしまい、2回目のハノイでは大変な行き詰まりになってしまった。
それでは、ここから先はどのように進んでいくのでしょうか。ハノイでトランプ氏が言ったのは、いわゆるリビア方式です。すべての大量破壊兵器を差し出して、廃棄せよというものです。カダフィの行く末を見ている金正恩が、これに応ずるはずがありません。
つまりこれは、ビジネスの世界にある同時履行問題です。同時履行とは、不動産を買うときに、現金を持って銀行へ行きます。片方は登記簿を持ってきて、その場で同時履行をして、お互いにハンコを押します。その際に、どちらが先に譲歩を提供するかという話です。両すくみになっているだけの話です。ですから、この問題は第三者が仲介に立たなければできません。ロシアも中国も第三者にはなれません。国連やNATOがなれるはずがありません。つまり、これはいくら会談をやっても、アメリカの政策が大転換しないかぎり先には進まないということなのです。
●すでにクーデターなどの政権転覆工作が進んでいる可能性も
中西 大転換する可能性があるのは、(アメリカの)大統領選挙後でしょう。トランプ氏が再選されるか、別の大統領が出るかです。私は、アメリカの公式の対北政策は、3つ目の選択肢があるのではないかと、前から思っていました。そしてどうも、ここに収斂(しゅうれん)しはじめています。
その3つ目の選択肢とは、クーデターです。金正恩体制に対する謀略的というか、いわゆるカラー革命的というか、斬首作戦という言葉もありましたが、どういう言い方をしてもいいけれども、秘密工作、破壊工作、国内攪乱、軍事クーデターなど、いろいろな幅がありますが、おそらく、すべての幅の、すべての選択肢を、アメリカは遂行していると思います。
ハノイ会談のあったその1週間前に、スペインのマドリッドにある北朝鮮大使館に、「自由朝鮮」という団体が、大使館を占拠し、館員を閉じ込め、秘密資料を大量に盗み出しました。あの事件は、非常に重要な事件だと思います。「自由朝鮮」はキム・ハンソル(金漢率)という、マレーシアで暗殺された金正男の息子を抱え込んでいます。つまり彼は、金正恩よりも正統な血筋と言うこともできます。おそらくアメリカは、体制を打倒した後に一定の安定期が必要だと考えており、そこではハンソルというカードを大切にしているのでしょう。
「自由朝鮮」という団体の背後には、いろいろな節から見て、これは私の推測ですが、FBIではなくCIAがいます。CIAの資金で動いているということは、最初からかなり明らかです。千里馬(チョンリマ)民防衛という名称で活動していた、金正男暗殺事件直後の流れを見ていて、当時からこれがCIAだと分かるような情報がたくさんありました。今回、「自由朝鮮」に団体名を変えました。おそらく、北朝鮮国内に力の基礎を持っているのか、北朝鮮の政権内部にちょっとした根っこがあるのか、あるいはCIAがものすごい力を入れているのか、そのどれかだと思います。一定の実行行動ができる力量を備えています。大使館を占拠...