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経済学がグローバル性を持ち得た理由とは?

経済学的発想とは何か(3)普遍的な社会科学として

情報・テキスト
科学的方法では、測定可能性と再現性が問われる。対象が社会や人間であり、測定や再現の難しい経済学が社会科学として普遍的な学問になり得た理由は、どこにあるのだろうか。また、コンピュータが可能にした経済学の「実験」とは。(全3話中第3話)
※インタビュアー:神藏孝之(10MTVオピニオン論説主幹)
時間:08:11
収録日:2019/07/10
追加日:2019/09/09
カテゴリー:
≪全文≫

●経済学が普遍的な学問になり得た理由


―― (前回は企業でも学問でも、競争がそれらを変え、動かすエンジンだとうかがいました。)それに加えて経済学にはグローバルな学問だという側面がありますよね。

柳川 経済学がグローバル性を持ち得たのは、理論モデルをつくって、抽象化したピクチャーをつくり上げたからです。もちろんそれが100パーセント現実模写ではないので、細かいところは厳密性を欠くのですが、そういうモデルをつくり上げたことで、それが他のところで適用しやすくなった。グローバルで、国が違えば、制度も違うし、社会的なシステムも違うので、そのままでは、実は応用できなかったりするのですが、「大枠のところはどこの国でも似たようなことが起きている」、ということでいくと、その理論モデルが通用する、ということができたので、そこがある意味で普遍的な学問になり得た一つの理由だと思います。

 中には「そういうのは学問ではないんじゃないか。現実の100パーセントの記述ができていないので、科学といえないんじゃないか」という人もいるんですけど、現状でいう社会科学というのは、そういうものだと思うんですよね。ある種の、現実の、分かりやすい見取り図、地図を描く、と。現実の分かりやすい見取り図というのは、100パーセント現実を模写するわけじゃないと思います。やはりそういうものをつくることには、僕は意義があると思っています。


●理論モデルを補強するデータ分析と「実験経済学」


柳川 ただその経済学の中でも、昔は実験ができないから、理論モデルがあっても、それが本当に正しいかどうか、なかなか検証できない、という議論がされていたんですけど、ここ最近は経済学でも大きな変化が起こりつつあって、かなりのデータ分析ができる、実証分析ができるようになったので、世の中、本当は何が起こっているのか、ということをデータで見ることができるようになった。

 そうすると、理論の検証だとか、実際、「実験経済学」みたいなのもあるので、それは箱庭実験みたいだったりするし、限界のある実験ですけど、理論を検証することができるようになってきた。ということで、かなりデータだとか実際に起こっていることをしっかり見る、というところにウエイトが置かれるようになってきました。ここが今の経済学の大きな変化だと思います。

―― その流れで今、ビッグデータやAIがあり、相当なことが分かるようになってきたわけですね。

柳川 そうですね。なので、そこは大きな学問的な進化だと思っています。データできっちり起こっていることが分かる、と。そうすると、データで分かったことに基づいて、理論を組み立てて、またそれを検証していくという、まさに自然科学が、物理の理論と実証とを両輪としているように、それができるようになってくる、という方向に向かっています。

―― IT、ビッグデータ、AIの時代って、経済学にとっては、ものすごい進化ですね。

柳川 そうですね。なので、10年くらい前の経済学と随分変わってきていて、かなり大きなコンピュータをまわして、昔だと計算できなかったようなビッグデータを解析することができるようになって、そうすると、「複雑すぎて、よく分からない」といわれていた、現実社会の構造が、データで見えるようになる、ということが起きているので、そこから新たなジャンルができてくると思います。


●エビデンスに基づく開発援助、政策立案


柳川 (新しい方向性として)最近できるようになった大きな動きとしては、開発経済の中で、大きな社会実験をやってみる、ということです。例えば、マラリアの予防をするのに、予防注射を打たせたほうがいいのか、蚊帳を与えて蚊を防いだほうがいいのかなど、いろんなアイデアが出ます。いろんな学者が自分の理論に基づいて意見を言うわけですが、それは実験ができないので、そういうことを実際にやってみることができなかった、と。

 それが今では実験をやるようになっていて。アフリカとかで実際に二つの実験の援助をしてみるのですが、それは「ランダム比較化実験」というもので、医学で使われているように、例えば他の部分は一緒にして、あとはランダムに偽薬と本当の薬を与えて効果を見る、みたいな感じでやりますよね。それと同じように、ランダムに地域を選んで、二つのやり方でやってみて、どっちが実際に効果があるかを見て、データが分析されて出てくる。そうなると、やはりこういう形の援助の仕方がいいんだ、ということが分かってくる。ということで、援助の仕方として、データベースをしっかりしてエビデンスに基づいてやる、ということが出てきていて、このあたりは「開発援助の革命だ」といわれているところで、そこが大きな話としては変わってきていますね。

 それだけではなく...
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