●アメリカのクーデター援助に金正恩はどう対抗できるのか
―― 金漢率(キム・ハンソル)がアメリカの国内に、いま、いるのではないかともいわれますし、まさに先生がおっしゃったようにクーデターの可能性というものが非常に高まっているなかで、逆にいうと、金正恩からすると、そのクーデターの危機にずっとおびえながら政権運営をしていかなければいけない。だいぶ乱暴に粛清もやってきましたし、いつそういうことが起きてもおかしくない状況を金正恩自体が、北朝鮮国内でやっているところもあり、これは彼の立場からすると、前にも後ろにもいけないという、かなり追い詰められた状況になっているようには思いますけれども、そのためにも、いま先生がおっしゃった第3の道というのは、締め上げるにせよ、どうするにせよ、かなり大きな手になりますね。ここで逆に、金正恩の立場になった場合に、採れる手というのはどこにあるのでしょうか。
中西 やはりまずは、アメリカの手を緩めさせることでしょうが、アメリカはそう簡単に緩めません。あるいは自力更生というか、自分の力で経済的に食っていける体制をつくりたいと思っていたのでしょうが、しかしアメリカに制裁されているかぎり、それもできません。おそらく客観的に考えて、「アメリカの属国になりますから、体制を認めてくれ」というような裏交渉を、一生懸命、トランプ政権と行おうと思っているのではないかと、私は考えます。つまり、北朝鮮にとって一番有利なのは、中国との関係でも、「アメリカが北朝鮮をアメリカの勢力圏として、友好国として(俗に言う「属国」ですが)遇してくれるなら、自分たちは核兵器も一切持たず、完全にこの勝負で降りてしまう」ということでしょう。そのときには、恐らく金正恩は海外亡命の約束を取り付けるでしょう。彼は年若いので、どこへ逃げてもなかなか生き延びられないと思いますが。なにせ敵が多すぎます。かといって徹底抗戦をして、国土を灰燼(かいじん)に帰するほどの度胸でアメリカと対するかというと、そうではないでしょう。ですから、展望なく時間を引き延ばしていくことしか、彼には選択肢はないのではないでしょうか。当面は、2020年のアメリカの選挙を睨んで(にらんで)いるのだと思います。
ですから、アメリカを中心に関係国の周りで、どうも転覆工作の空気が強まっているというのが、一番の圧力になっているのではないでしょうか。その恐怖心が非常に強いため、(いま実際の報道はありますが)彼の護衛隊、周辺を防備しているガードマンは、ほとんど旧ソ連のKGB出身者が、プーチン政権の許しを得て、北朝鮮に送り込まれているそうです。彼らはアメリカの大統領のシークレット・サービスを中心としたアメリカ大統領警護システムよりも、もっと現代的なシステムを採用し、優秀な最新のテクノロジーを使っているようです。この部分は怠りないかもしれませんが、かといって展望がなくなってしまいます。おそらく、アメリカの対中戦略次第で、金正恩は自分が生き延びる余地があると思っているのではないでしょうか。
●北朝鮮の外交手法としての中国というカード
中西 北朝鮮はずっと昔から、こうした姿勢をとっています。アメリカと交渉するときに、「あなた方は、中国の勢力が朝鮮半島に及んでもいいのですか」と、アメリカを常に牽制してきました。北朝鮮は、「だから、われわれの存在価値がある、われわれと取引する余地がある」ということを主張してきたのです。ところが、いまおっしゃられた通り、半島に風雲急を告げているのはもはや北ではなく南です。南に中国の影響力がものすごく強く入ってきて、北よりも南のほうで中国の影が濃くなっています。
ですから半島は、非常に複雑な入れ子構造になってきています。韓国の輸出の構造を見れば、中国の影響力が強まるのは当たり前です。最新の数字では、韓国の全輸出の4分の1から30パーセント近くが、対中輸出です。これは対米輸出の数倍です。そう考えると、韓国が中国寄りになっていくのは当たり前の趨勢(すうせい)なのです。
日本は、こうした課題を有している韓国と付き合っているのだと、認識を新たにしたら、現時点で日韓間にあるような問題は、実はアプローチが少し間違っているということに気づくと思います。日韓問題になると、日本の国内世論も関わってくるので、純粋な外交問題ではなくなってきます。それに対して北朝鮮問題はおっしゃる通り、時間はかかるかもしれませんが、出口ははっきりしています。金正恩体制の存続問題につきます。