●流れ星で「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」
柳川 みなさん、こんにちは。東京大学経済学部の柳川と申します。今日の対談では、株式会社ALE(エール)の代表取締役で理学博士の岡島礼奈さんにお越しいただき、いろいろとお話を伺うことになっています。
後ろにすごい模型がありますが、まずエールがどういう会社かをお話しいただけますか?
岡島 はい。こちらに模型がありますとおり、人工衛星をつくっています。そして、人工衛星に流れ星の元となる粒を詰めて、宇宙空間に打ち上げています。ちなみに、粒はこのくらいの大きさです。そして、人工衛星からこの流れ星の粒を放出すると大気圏で燃え尽きるのですが、それを地上から見ると流れ星として楽しめる。そういったことを手掛けようとしている会社です。
さらに、流れ星は高層大気と呼ばれるところで燃えるのですが、その部分のデータを取得して、気候変動の研究であったり、スペースデブリ(宇宙ゴミ)を安全に廃棄することなどに応用しようとしています。
柳川 なるほど。最初にこの収録の話が来たとき、流れ星を人工的につくる会社だというお話を聞いたので、エンターテインメントビジネスを展開されているのかなと思っていました。でも、今お話を伺うと、それだけではなく、宇宙のデータを集めるビジネスもやっているということですので、かなり多面的な方向性でいろいろとやっていらっしゃるのですね。
岡島 実は、「科学を社会につなぎ 宇宙を文化圏にする」というのが、われわれが掲げているミッションで、エンターテインメントという言葉は入っていません。とっつきにくい「宇宙」や「科学」を「流れ星」という親しみやすいコンテンツにのせることで、たくさんの人が宇宙に興味を持ったり、科学に興味を持ったりするといいなという思いから、流れ星を研究しているのです。そして、科学を社会につないだその先に、宇宙に興味を持つ好奇心旺盛な人々が「宇宙に出て行くぞ」と言って、宇宙が文化圏となる未来を目指しています。
●きっかけは「しし座流星群」
柳川 宇宙開発といえば、少し前までは国が行うものというイメージがあって、民間企業やベンチャー企業が宇宙で何かを行うというのは、なかなかイメージしにくかったと思います。最近でこそニュースになるようになりましたが、こういった構想を頭の中に描かれたのはいつ頃なのですか?
岡島 思いついたきっかけは2001年に、同級生と見た「しし座流星群」です。当時、私は天文学を専攻する学生だったのですが、その美しさに感動したのを覚えています。そして、流れ星を好きなときに、みんなで見られたら楽しいだろうなと思ったのがきっかけです。
柳川 そこからは、どういうふうにビジネスに展開していったのでしょうか?
岡島 最初の頃は、流れ星がビジネスになるのかどうか、はっきりと確信を持っていたわけではありませんでした。また、技術的にもできるかどうか分からない部分があったのも事実です。ですから、きっかけは2001年ですが、流れ星をつくるための基礎研究を始めたのは2009年で、少し間があるのです。
柳川 間があるのですね。
岡島 2000年代になって、小型の人工衛星が登場してくるというトレンドが出てきました。
柳川 技術的にできるようになってきたわけですね。
岡島 そういった流れもあって、今だったら、流れ星を小型の衛星に載せられるのではないか、と。
お見せしているこちらが実物大の衛星の模型なのですが、今までは何百億円とする大きな人工衛星で行っていたのを、この小型サイズの衛星を使うことで実現できるのではないかと思って、模索し始めたという経緯があります。
柳川 そういった技術革新があったので、国の大きなお金に頼らずに、実用化するという方向になってきた、と。
岡島 実用化できるであろう、と。
柳川 「あろう」くらいだったのですね。
岡島 まだその頃もまったく確信が持てませんでした。2009年から、本当に流れ星の粒が光るのだろうか、どのくらいの大きさだったらいいのか、そして流れ星を流すためにどのくらいの速さで粒を放出すればいいのか、といったことを、基礎の基礎から大学の先生と研究を始めたという経緯があります。
●働き方改革に近いかたちで仕事を進め、研究費を捻出
柳川 その研究をしていた当時、岡島さんはどこか別の会社にお勤めだったのですか?
岡島 そうですね。私は自分が手を動かして計算していたわけではなく、大学の先生との共同研究という形で、一緒に調べてもらっていました。そのとき、私は別に仕事を持っていて、今の働き方改革みたいな感じで、週4日はとある企業さんの業務を受け、週1日は流れ星の活動に当てるという働き方をしていました。業務委託で受けている収入の中から、...