●アメリカにおける固定化された差別の存在
岡本 そういう差別のある構造体を、アメリカはもう受容してしまっているのですね。これはやがて、ヨーロッパにも広がっていくのかもしれません。差別のある構造体といえば、僕も今でも忘れられない記憶があります。
何年か前に、メリーランド州の島にある友人の別荘に呼ばれたのですよ。その友人は、白人の富裕層の人間です。その島には別荘だけが100軒ほど建っており、持ち主はほとんどが白人です。
それで、朝の7時ぐらいにその島に連絡船が着くのですよ。そこから降りてくる人は、ほとんどが非白人で、ラテン系、アジア系、アフリカ系の人などです。その人たちはみんな、メイドとして、あるいは庭師として、その100軒ほどの別荘の世話をします。
こんな光景って、日本ではないでしょう。大きな集団になっていて、150人くらいいたでしょうか。もう見るからに身なりは見すぼらしく、異様な集団でしたが、彼らが仕える人たちで、そこに住んでいる人たちが、彼らを利用する人たちであるわけです。かくもあざやかに構造が分かれているのかと、私はかなりショックを受けました。その場所は特殊な島なのかもしれませんが、アメリカ全体を見ても、同じようになってきているのだと思います。
伊藤 ヨーロッパもそのように固定化しているようですね。一部の研究を読んでみると、アメリカで唯一救いだったのは、それでも階層的に上昇する機会がそれなりにあったということだと思います。それも今ではどうか分かりませんけれども。
岡本 今は、学費がめちゃくちゃ上がってきているから、そう簡単に上に上がれないのですよね。
●デカップリングとは?
伊藤 話をちょっと戻すのですが、デカップリングの話についてどう思われますか? 日本にいた時にはあまり意識していなかったのですが、最近、海外の会議に行くと、多くの人がデカップリングについて話し始めています。
そのなかで少し印象的だったのは、ファーウェイについてです。デカップリングというとすぐに思い出すのはファーウェイで、「あなた、ファーウェイ使うの?使わないの?」と聞かれます。5Gを前提としながら、アメリカと中国はどんな関係になっていくのかに関わる話です。
●米中経済で複雑な分極化が起こっている
伊藤 ファーウェイの話題はどちらかといえばモノの流れについてですが、国際会議でさらに印象的だったのは、やたらドルの話になったということです。今のグローバル経済のなかでは、ドルのウェイトがものすごく高いのですね。いろいろな測り方があるのですが、測り方によっては世界経済の7割~8割がドルなんじゃないかと思います。
アメリカは、イランの例もありますが、いろいろな国にすぐドルのサンクションを課そうとしますよね。だから通貨の面でも、米中で本格的に競い合っていくと、場合によってはある種のデカップリングが起こり得るかもしれません。中国はもちろん、それを想定して自分たちを守らなければならないでしょう。
ヒトについてはどうでしょうか。よく分かりませんが、アメリカでは特に中国からの留学生を抑制しようとする声が上がっていますよね。
このように、私は今まであまり考えていなかったのですが、国際会議に出ていると、デカップリングが頻繁に話題にのぼるのです。綺麗に2分化するわけではなくとも、これまでは無秩序ながらもグローバル化したヒト・モノ・カネの流れに、変化があるのではないかという気がしてきます。結構、注目する必要があるかなと思っているのです。そのあたりはどうでしょうか。
●デカップリングは安全保障の領域で生じてきた
岡本 安全保障の分野では、デカップリングというのはよく使われていた言葉ですね。特に1987年の中距離核交渉(中距離核戦力全廃条約)の時には、カップルであったアメリカとヨーロッパの間に溝ができ、「カップルが引き離される」という意味でデカップリングという言葉が使われました。
そういうことからすると、ジョージ・W・ブッシュ大統領の時に、さかんに「有志連合」という言葉が使われたことも象徴的です。法律も条約も二の次で、とにかく「俺と一緒にやれる者は来い」といった姿勢です。それに応じる国とそうじゃない国との間で、アメリカ同盟国の中でも幅や差ができていきました。
●国内外で生じる新しいデカップリング
岡本 でも今のデカップリングは、おっしゃる通り、もっと幅が広く、経済の分野にまで広がっています。確かに新しく起こりつつある現象なのでしょう。それもやっぱり冒頭に言った通り、グローバリゼーションが貧富の差を拡大させ、教育費用が非常に高いことからくる教育格差によって、社会全体が分断化されてきているからでしょう。その意味では、人々をひとつに結びつける粘着...