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戦後日本の名経営者たちを彷彿させる現代中国の起業家精神

中国、驚異の情報革命(7)中国の可能性と課題

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
中国の現状を概観すると、日本との違いが浮き彫りになる。猛烈な起業家精神と激しい企業間戦争、膨大な人口がそのまま資源になるデジタル・トランスフォーメーション、さらに国家による強力な戦略樹立と、その推進。われわれは中国の優れた点を素直に学び、注視していく時期に入ったのではないだろうか。(全7話中第7話)
≪全文≫

●中国の起業家精神と激しい企業間競争


 さて、6回にわたって中国の変化を勉強したところで、皆さんと一緒にいくつか考えてみたいと思います。

 一つは、中国の特徴である起業家精神と激しい企業間競争についてです。華為の創始者、任生非、アリババの馬雲(ジャック・マー), テンセントの馬化騰(ポニー・マー)。この人たちに共通するのは、自立心の強い起業家精神です。これは敗戦後、日本の焼け野原から立ち上がった松下電器の松下幸之助、Sonyの井深大、ホンダの本田宗一郎、そしてすでに確立していた織機を脱却して自動車をめざして命を落としていった豊田喜一郎らを彷彿させます。

 もう一つの企業間競争の激しさも、特に注目です。華為は、国家の支持と支援を受ける国有企業との熾烈な戦いのなかから生き残って浮上しました。アリババとテンセントをめぐるモバイル決済事業の激しい戦いは、どちらが死ぬかという戦いでした。また、滴滴出行とUberの戦いも大変です。これらは枚挙にいとまがありません。

 国家は、こうした民間活力を、規制するよりもむしろ横や後ろで見ていて、後で利用するということのようです。世界の一部では、よくこれらの企業について「国家主導で、国家の支援を受け、共産党の支援で成長したのではないか」という批判がありますが、今回の話をしっかり聞かれた皆さんには、それが全く的外れであることがお分かりになると思います。政府はむしろこうした民間活力を事後的に利用してきたと言えると思うのです。


●デジタル革命の潮流に乗る中国のデジタル・トランスフォーメーション


 もう一つは、中国のデジタル・トランスフォーメーションについてです。創造的な企業群を追って次のベンチャー企業群がどんどん生まれており、ユニコーン企業が陸続と成長しています。彼らは中国全体のデジタル革命の潮流に乗っています。

 中国にはおよそ14億人という巨大な人口があります。それは、超ビッグデータを生む基盤です。この点、中国は他の諸国を全く圧倒しています。ビッグデータはディープラーニングを可能にし、AIによるその分析から次のイノベーションや新産業が発芽するからです。

 そうしたビッグデータの有利性をあますところなく利用して、多くのプラットフォーム企業が多様なサービスを繰り広げ、それがデータ革命をさらに促進するという循環が起きているということを、われわれは注目しておく必要があります。


●国家の戦略と執行力


 さて、中国では国家も多少の役割を果たしています。中国が開発途上国から先進国への転換をはかる過程で、「新常態経済」「中国製造2025」「AI戦略」などの国家戦略が打ち出されました。それまでの低賃金経済の量的成長ではなく、高賃金経済を支える質的高度化をめざしたものです。

 21世紀に入ってからの中国のすごさは、それらの戦略や政策が机上の議論ではなく、着実にそして確実に実行されていったことにあると思います。政府のそうした実行力を私どもは理解する必要があります。

 ちなみに日本の安倍政権のもとでは、毎年6月に「経済財政諮問会議」ならびに「未来投資会議」が「ソサエティー5.0の実現」など、総合的で立派な政策案を公表しています。しかし、われわれの見る限り、政策内容が確実に実現されることは、あまりないような気がします。

 一方、中国では、個人の自由が制限され、国家の統制が優先する特質があります。それはデータ革命をより容易にする側面があると同時に、国際的に猛烈な批判の対象にもなっているということは、理解しておく必要があります。


●中国から目をそらさず、率直に学ぶ時代


 中国はこれまで、世界の諸国を真似して発展してきましたけれど、むしろわれわれは中国から学ぶことが多いことを率直に認める必要があるように、私は思います。すでにデジタル革命の多くの側面で、中国は世界をリードしつつあります。中国の優れた面は率直に評価し、学んだほうがいいのではないかと思います。

 2012年の尖閣列島の問題以来、日本は中国から目をそらし、彼らの発展、その実像の理解を怠ってきた面があるのではないかと思います。中国は、多様な意味で日本にとって、これまでもこれからも極めて重要な存在なので、その動向は注視しつづける必要があります。

 そして、日本の企業は、中国を対等の相手としてよく理解し、協力し合えるところは協力して、お互いのメリットを増幅していくべきではないかと思います。
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