●わずか10年ほどでネット通販の取引総額が50兆円超えに
前回と前々回ではファーウェイにだいぶ時間を費やしましたが、今回は有名なアリババ(阿里巴巴)について申し上げたいと思います。アリババは世界最大級のマルチ・プラットフォーム企業として、あらゆるサービスを提供しています。
アリババのネット通販の取引総額は、2016年で3兆元(約51兆円)。ウォルマートが半世紀かかった道のりを、アリババはわずか13年で成し遂げています。とはいえ、スタートから大変な苦労の連続だったようです。
アリババ集団を興したのは馬雲(ジャック・マー)という人で、かつては浙江省杭州市の高校教師でした。当初は企業間電子商取引(eコマース)をスタートさせたのですが、2000年にネットバブルが崩壊したので倒産の危機に陥っています。この時に彼はタオバオ(淘宝)・アリペイ(支付宝、ALIPAY)の仕組みを開発し、命脈を保ったと言われています。
当時は、eBayとたいへんな勝負を戦いました。その頃の中国はクレジットカードの普及率が低く、決済の成功率も低い、相当厳しい市場でした。馬氏は、ネット決済には中国独自の課題があると見て、eBayのようなわけにはいかないことに、早くから気づきました。
彼は、アメリカでPayPalが行っていた「エスクロー(第三者預託サービス)」を中国で最初に導入します。買い手が代金をアリペイの口座に預託する。送付商品を確認して問題がなければアリペイに支払いが指示される。そこで初めて売り手に代金が支払われる。こういう流れで、売り手も買い手も不安がなくなるシステムです。
しかし、金融サービスの許認可のない民間企業が決済サービスを行うのは前例がなく、法律にも規定がありません。だから、いつ逮捕されるか分からない。馬氏は「問題が起きれば、僕が刑務所に行くから、開発を進めろ」と言ったらしい。相当な度胸です。
●eBayとの激闘を超えて前例のない決済サービスを普及
2004年にアリペイ・アカウントシステムが杭州で初めて誕生します。これを促進させるために「全額補償キャンペーン」などを実施して、利用者の不安をなくします。全てのリスクは全部アリペイが負うということで、タオバオの利用者、アリペイによる決済は急激に増えます。また、手数料を無料化し、eBayとの差別化にも成功します。
こうしてアリペイはeBayとの激しい競争に入ります。2005年に担保取引と決済のインターフェースを開放し、タオバオ以外のeコマースの事業者の利用を促進させようとしたのです。決済手数料無料で加盟店に奨励金を払うというものでしたが、当初は皆、腰が引けていました。しかし、タオバオがアリペイ効果で年100パーセント以上成長するのを見て、皆がわれもわれもとアリペイ導入を決断し、広まったわけです。
それでもまだ中国ではeBayのシェアが圧倒的でした。しかし、アリババがタオバオを導入してからeBayのシェアは低下して、2005年に逆転します。2007年9月、馬氏はeコマースの事業者大会で、勝利宣言をします。「アリペイ利用者は5000万人を超えました」と言ったのですが、翌年には1億人に達します。手数料にこだわったeBayは敗退して消えていった、ということです。
2005年、中国人民銀行は「決済精算組織管理弁法」を発表して、アリペイのような第三者機関を対象に入れる意向を示しました。それから5年後には、とうとう「金融機関決済サービス管理弁法」を発表して、第三者決済サービス機関にライセンスを与えます。中国で初めて、この種のサービスが法律で認められたわけです。
中国の政府は新興企業を後ろで見守っていて、後から規制をします。日本の民泊の場合はそうではなく、既存業界(ホテル業界や旅館業界)を保護するために、かなり規制がかけられました。これを見ると、中国はなかなか柔軟なのかもしれません。
●「独身の日」記録をサポートしたクラウド技術とユエバオ
アリババクラウドの誕生については、ちょっとしたストーリーがあります。
11月11日は「ダブル11」で「独身の日」といわれています。これはアリババの仕掛けた新たな商機ですが、2017年に1日で1,682億元日本円にして約2.8兆円)を売り上げるという記録を残しています。
取引のピークには毎秒32.5万回の取引が行われ、データベース処理のピークは毎秒4200万回。これはよほどコンピュータの数が莫大なのでしょう。ネット攻撃がありますが、全部防御しました。
それで、アリババはまた勝利宣言をしたのですが、内実としては7年間かけて、これまでのアメリカの企業とは違う独自の分散型処理技術を開発したことがありました。このクラウド技術が、アリババの勝利につながったわけです。
その時にアリババが発明したのが、アリペイを使った資産運用「ユエバオ(余額宝...