●「改革解放」の成功と中国の高度成長
中国における情報経済躍進の背景として、今回は皆さんと一緒に、中国のマクロ経済がどのように変化してきたかをかいつまんで振り返ってみたいと思います。
中国経済は、鄧小平の時代から、平均年率経済成長率9.6パーセントという大変な高度成長を約30年続けました。鄧小平が「改革解放」を始めた頃、中国の世界経済におけるシェアは3パーセント程度だったのが、その完成時には15パーセントに達する勢いでした。
2011年以降、経済成長率はだんだん下がっています。2011~14年は実質7.8パーセント、2015年は実質6.9パーセント、2019年には5.8パーセントになるとIMFは予測しています。これは米中貿易摩擦の影響があるわけですが、そうした特殊要因を別にしても成長率は低下趨勢で、2024年には5パーセント台になると予測されています。
しかし、このように経済成長率が低下してくること自体は、たいした問題ではありません。なぜなら、中国は今、経済が歴史的大転換期にあるからです。そして、次の二つのチャレンジに同時に直面しているわけです。一つは中進国として「先進国になれるかどうか」のディレンマ、もう一つは先進国の現象として人口減少が進み社会が成熟化しつつあることに対するものです。
●「新常態経済」の提唱と移行
鄧小平の時代、中国は低賃金労働、外資で技術を導入し、競争力を高めて輸出をして成長するという途上国の典型的な発展パターンを取りました。そのおかげで中国は30年間、10パーセント近い成長を続け、世界での存在を非常に大きくしたわけです。
その後、賃金コストが上昇します。5~6年で倍増という、大変な上昇ぶりです。これを克服するには、産業構造を近代化させないと克服できない。しかも、それは借り物の技術ではなく、自前でイノベーションしなくてはいけない。イノベーションできるかどうかが、中国が今後成長していく上での非常に重要な課題になるわけです。
そんななか、習近平主席は2014年に「新常態経済」への移行を呼びかけました。これを “New normal”と呼んだのは、アメリカのファンドマネジャーをやっている方ですが、中国では「新常態(シンチャンタイ)経済(ジンジ)」といいます。
まず、経済成長が減速していることを認識し、受け入れよう。それに見合った経済戦略と政策を推進するのだ、ということです。そのために、これまでの労働力と資本投入による量的拡大から技術革新(イノベーション)による質的向上による経済成長を目指すのだというのが、新常態経済の眼目です。
●経済強国化戦略と「中国製造2025」
新常態経済の考え方に基づいて、中国では「建国100年(2049)」を目指して中国を「経済強国化」するという目標を立てました。
皆さん、よく覚えておられると思いますが、2017年10月に5年に1回の「第19回共産党大会」が開かれました。習政権が第2期目に入るという画期的な時期でしたが、この時に「強国化構想」を発表したわけです。
2020年には、「小康社会」としていろいろなものがある程度うまくいっている社会を全面完成させる。2035年には、「社会主義現代国家」にしてみせる。そして、2049年は中華人民共和国建国100周年なので、「社会主義現代化強国」として世界最強の経済を誇る。経済が最強になるということは当然、軍事も最強になるのですが、その実現にはイノベーション(創新:チャオシン)というものが重要なのだというシナリオです。
2015年に中国国務院(政府)は、こうした目標を実現する第一歩として、産業政策としての「中国製造2025」を発表しました。これは、次世代の情報技術やロボットなど、10の重点分野を設定して、製造業で高度化を目指すというものです。「中国製造2025」は、建国100年の2049年に「世界の製造強国の先頭グループ入り」を目指す長期戦略の第一歩だというわけです。
「製造強国」は軍事強国でもありますが、その工程表としては、第一段階は2015年から2025年に「製造大国」から「製造強国」に仲間入りする。モノだけはたくさんつくってきたけれども、質は必ずしも良くない。今後はそこを強化して強国の仲間入りをするのだ、ということです。第二段階は2025年から2035年に「製造強国の中等水準」に達するということで、ドイツや日本を意識しています。第三段階は2049年に達成するわけですが、「製造強国の先頭グループ」として世界をリードする。このように言明しているわけです。
●インターネットプラス、大衆創業・万衆創新
さて、中国のすごいところは、こうした考え方や大方針に基づく具体的な計画が、国家権力によって次々に示されて、それを本当にやってしまうところにあります。
この数年間、中国が今大きく注力しているのは、「インターネットプラ...