●コロナが明らかにした「自律分散協調系」
―― 皆さま、こんにちは。本日は、三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光さんとテンミニッツTV座長の小宮山宏さんに「ポストコロナ、日本の指針」というテーマでお話をいただきたいと思います。両先生、どうぞよろしくお願いいたします。
小宮山 お願いします。
小林 お願いします。
―― 今般、コロナウイルスの問題があって、世界各国いろいろ対応が分かれました。そのなかでの日本の対応は非常に独特のものがあったのですけれども、これについてどのようにお感じになっているかということをお聞きできればと思っています。
まず小林会長、今回のコロナウイルスについてどのようにお感じになっているか、お話をいただいてもよろしゅうございましょうか。
小林 もうだいぶ皆さんが議論されているところですので、あまり似たようなことを言うよりも、小宮山先生との対談ということで、私の脳裏をよぎったことを申し上げます。もう十数年前から先生は「知の構造化」ということをいわれてきました。私の気に入っている言葉では、エコロジー(Ecology)、サステナビリティ(Sustainability、持続可能性)、プラス「自律分散協調系」です。
私は、21世紀はまさにそういう経済社会システムの方向に向かわざるを得ないと感じています。それは学問の場、個人あるいは企業体であっても同じです。「知の構造化」は定性的な部分を構造化していく点でデジタル化でもあり、どちらかといえばアナログな社会をデジタル化し、イチゼロに置き換えていくことです。
十数年前から先生の言われてきたことが、ある意味でこのコロナによって非常にクリアになり、21世紀はそちらに向かわざるを得ないのではないかと感じておりまして、そのための実践として、「プラチナ社会」に取り組んでこられたのだとも思いました。
私のほうも「KAITEKI(快適)」を軸とする哲学のようなものを唱えてきました。企業体というのは、必ずしも収益や効率化だけではなく、社会に対してイノベーティブな事象を提唱・提供する必要があるということ。今の企業は、ESG(Environment:環境、Social:社会、 Governance:ガバナンス、統治・管理)やSDGs(Sustainable Development Goals:持続的な開発目標)といわれる基準で判断される社会的な存在として環境問題にかかわっているということ。それらのバランスを3次元的にとって経営をしていく。それにより、われわれの企業が、社会に「KAITEKI」を提供する存在でありたいというものです。
●コロナ禍で加速すべきものと見直すべきものがクリアになった
小林 社会の「ウェルビーイング(well-being)」そのものを提供するのがわれわれの存在理由であると言ってきたわけですが、プラチナ社会や「KAITEKI」社会の実装の仕方については、小宮山先生の場合、地方自治体等をはじめ、国内の林業も含めて、非常に地に足の着いた活動を取られてきました。
一方、私のほうは企業をグローバルに展開しながら、「KAITEKI」社会として、地球のサステナビリティなり、今回のようなパンデミックにおけるヘルスケアなりを、ウェルビーイングとともに重視してきました。こうしたキーワードにより、イノベーションをどう創出するかということを、この10年以上検討してきたわけです。
そこへコロナが起こり、何を加速しなければいけないのか、あるいはここで引き返さなければいけないのかという二つがクリアになったかと思います。
加速しなければいけないのは、もうこれは全ての国民が感じているように「デジタル化社会」です。今回、日本ではようやく遠隔教育やオンライン医療やウェブ会議が加速しましたが、マイナンバーカードの普及率でさえ現時点で16パーセントだといいます。安倍政権が7年も続いていながら、まだ16パーセントです。また、10万円の給付金に関しては、他の国ではそうしたものはだいたい1週間以内に配っているというのに、そのように進まず、ついに紙(郵送)で対応するといった事態になっているところもあります。
この議論は7年以上やっているけれども、実装ができていないのです。本当の最後のカスタマーのところ、文字通り「国民目線」を持たず、管理だけに使おうとしてきたために、カスタマーサティスファクションの感覚がまったくなかったわけです。加えて、国民自体のデジタルに対するリテラシーのなさも浮き彫りになりました。
それから見直すべきものには、グローバリゼーションがあります。世界各国が非常に自国第一主義に陥っているときに、本当に単純なグローバリゼーションでいいのか。それともアンチグローバルではないグローカライゼーションのようなものがあり得るのか。これは、サプライチェーンも国家の安全保障も含めて、まさに立ち止まって...