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●デジタルとハンコ、ヘルスケアと医療の問題点
―― 両先生から、日本がなかなか動かない、あるいは実装ができないという話をいただきました。これまで実装できなかった理由、動かなかった理由というものを、コロナ禍の現状から振り返って考えたときに、どういう部分が一番大きかったと思われていますでしょうか。
小林 デジタルという側面から見ると、お金に対するクレディビリティ(credibility: 信用性・信頼性)の文化ですね。逆に紙幣にあまり信用性がない中国などと比べると、その違いの大きさがあると思います。
これは、データをストレージするデバイスのことを考えると、よく分かると思います。かつてテープがあり、フロッピーディスクがあり、光ディスクがあり、ハードディスクの文化がしっかり根付いてきたところでは、飛躍してインターネットに飛ぶのにちょっと時間がかかったりしましたよね。ところが中国とかインドの場合、デジタルの前にあまりそういう大きな技術がなかったもので、一挙にそこに飛んでいけた。
ハンコの文化もそうだと思うのですが、どうやら既得権者がはびこっている。これは医療もそうなのですが、そういうものが根付いて、深いところのものを変革するのに時間がかかってしまったなと感じます。デジタルにまつわる部分というのは、単純な実装だけではなくて、既得権者を抑えながら、新しいテクノロジーなりイノベーションをどう展開していくかというところが問題だったのです。
医療などはまさにそうだと思うのですが、「ヘルスケア」という意味ではすごく大きな伸びを期待できるのに、既存の医療体制あるいは医療組織がやはり一つのネックになっているのではないかという気がします。
●コロナ拡大で進んだオンライン診療の規制改革
小宮山 とても重要な問題を出されたと思うのですが、今回のコロナでは、小林さんはインターネット(オンライン)診療について努力されましたよね。
小林 規制改革(推進会議)の議長をやっていますので、オンライン診療は2020年4月初めに一挙に進みました。
小宮山 それが、「コロナ拡大による時限措置」に終わってはいけないわけです。
小林 おっしゃる通りです。
小宮山 一回体験すれば、いかに有用なものかが、いろいろな人に浸透するはずです。なので、どうやってこれを恒常的なものにするか、腕をふるってほしいと思います。
小林 これは非常に重要なところだと思います。最初は手を挙げる医療機関が1000ぐらいしかなかったのが、もう1万ぐらいになりました。オンライン診療なり、初診の電話も含めた形での対面以外の診療がけっこうできるようになってきました。
●医療の情報化を推進するオンライン診療を止めてはいけない
小林 おそらくこれは、患者との間の「ドクター・トゥ・ペイシェント」に限らず、お医者さん同士の「ドクター・トゥ・ドクター」の間での情報交換でも、非常にコンフォタブルであるという認識を深めているのではないかと思います。
そういうコネクティビティがあれば、医療崩壊も簡単には起こらない。個々の病院や個々の地域だけで議論していると、圧倒的に飽和してしまう場所もあるかもしれないけれど、オンラインでもっと情報を交換すれば、領域性に縛られず患者をうまく手当てしたり、移動させたりできる。
やはりコネクティビティという意味でも、オンライン診療は重要な部分ではないかと思います。病院そのものもベッドも効率よく使っていくためには、単純なドクター・トゥ・ペイシェントの関係だけでは足りないと思うわけです。
小宮山 そうですね。今「お医者さん同士」とおっしゃいましたが、例えば今のコロナなどでは、世界でいろいろな最先端の試みがなされているわけですよね。免疫を強めるとか、新薬を使うとか。それで成功した例も失敗した例もたくさんあるわけですから、それらこそは「知の構造化」にして現場の医師に行き渡らせる。そのための方法は、現時点ではインターネット以外に考えられないのではないでしょうか。
そのためのベンチャーというのは実はずっと前からあります。学会の最先端の情報を現場の医師に勉強してもらうためのベンチャーもあれば、「メドレー」のように最先端の医師の技術を広げていくためにインターネット業界の人が考えた仕組みもあり、たくさん出ていて非常に期待ができます。
ところが、それらが今までは全部苦戦しています。それは既存の利得者・権利者からの圧力があるからです。今度のコロナを奇貨としてようやく進んだオンライン診療が恒常的なものになるよう、規制会議の議長として、さらに前進させていただきたいと思います。
小林 大した力はないですけれども、ここはポイントだと思いますね。


