●欧米における高い死亡率から見えてくるもの
―― ありがとうございます。曽根先生、前回の小宮山先生の分析に対してコメントいただけますか。
曽根 はい。ヨーロッパ・アメリカとアジア、あるいは中東の差異の原因は、学問的にはもちろん、現実の政策の観点からも重要です。特に日本だけ取り上げて「ファクターX」の存在を強調する、つまり日本固有の現象だとして、日本が特に優れているとする議論もあります。しかし、このデータからは日本だけが特に優れているということは出てこないわけです。
むしろ、欧米でこれほど死亡者が多い理由を問う必要があります。一つの仮説として、欧米人は血液が凝固しやすいことが高い死亡率につながっているという議論があります。コロナウイルスは肺の病気を引き起こすと思われていましたが、同時に心臓や脳、肺に血栓を引き起こしやすく、その影響が大きいことが最近分かってきました。
もう1つの点は、小宮山先生の指摘の通り、基礎疾患を抱えている人は、重症化するリスクが非常に高い傾向があります。これはアメリカのCDCのデータです。アメリカのデータはサンプル数が約100万人という規模なので、大量のデータから見える傾向があります。その中で、心臓疾患や糖尿病、慢性肺疾患、そして基礎疾患ではないですが肥満なども、重症化と大きく関係していることが分かってきました。
それでは、これらの人たちが重症化しやすい、あるいは死亡リスクが高い理由は何なのでしょうか。徐々に分かりつつあるのは、軽い炎症を起こしている人は、この新型コロナウイルスに感染すると重症化しやすいという傾向があるようです。今後より詳しく調べる必要がありますが、医学的な知見も増えつつあります。しかし同時に、いまだに分からないことも多いのです。
●日本の感染者の少なさはおそらく生活習慣に起因する
―― はい。今、曽根先生から「ファクターX」に関して指摘がありましたが、小宮山先生の見解はいかがでしょうか。
小宮山 事実が明らかになるにつれて、日本の「ファクターX」はない、というのが今の共通理解だと私は思っています。日本では、感染者の数が非常に少ないですね。これはおそらく、世界一ともいえるきれい好きな文化や、それからハグやキスなどの接触が、少なくとも公衆の面前では非常に少ないという習慣によっても説明できるでしょう。また、マスクを日常的につける文化も、人にうつさないという意味で効果があると思います。そして、外ではマスクをしていないとなかなか歩きにくいという同調圧力もあります。
これらの理由で、感染が抑えられているのだと思います。つまり、感染経路自体は世界共通でそれほど変わりませんが、日本の生活習慣が大きく影響しているのです。
また、致死率はこちらのデータで国際比較をしても低いとは言い切れません。それはなぜかというと、先ほど挙げた3つのファクターについて見てみると、社会崩壊は起きていません。しかし、世界一の高齢化社会なので、高齢者は多いのです。そのため、年長の方が亡くなる傾向があります。既往症に関しては、世界と日本でどっちが多いのか。日本でも高齢者には既往症を抱えている方が比較的多いのですが、欧米の場合は若い人でも肥満の方が多いなど固有の問題もあります。
このように考えると、日本で感染率が低いのは「ファクターX」ではなく、日本の生活風習の問題だと考えられ、その上で死亡率が平均レベルにあるのは、医療崩壊はしていないものの、高齢者が多く、既往症を抱えている方もある程度はいることで説明できます。したがって、私の見解としては、現在の日本の状況は不思議なことではないと思います。
●死亡率は高齢者の間では高いが現役世代の間では低い
―― はい。上のスライドも小宮山先生が用意されたものですが、日本の年代別感染者と死者の表があります。こちらも一度目を通しておいた方が良いでしょう。
小宮山 そうですね。これは6月末頃のデータです。当時はまだ日本の死者数が1000人に到達しておらず、950人ほどのデータだと思います。比較的新しいものです。
この表のうち赤い部分が亡くなった方の数を示しています。横軸には年代を取っています。傾向として一目瞭然なのは、赤い死者数は高齢者、特に80代以上に多いということです。70代では死亡率は11パーセント程度で、感染者の9人に1人が亡くなっています。私はちょうど70代の中間なので、感染しない方が良いですが、感染したとしても9分の8は快復するということです。60代でも死亡者数は少なく、60歳未満の現役世代は、50代でほんの少し...