●白黒の二極論では議論できない「Go To トラベル」キャンペーンの難しさ
―― 先生には毎回いつも聞かせていただきたいことがいっぱいあるんですけれども、特に、この2020年の7月、8月に「Go To トラベル」キャンペーン(以下、Go Toキャンペーン)というものがありました。これは、うまくいった・うまくいかないという賛否両論です。
先生がおっしゃられている、いま大変な人を助けるという話と、将来の経済成長を考えるという話とは、次元の違うものとして合理的に判断する必要があるわけですが、そこが日本人にものすごく欠けていると感じます。そこで、Go Toキャンペーンの考え方、つまり合理的に判断していくということ、そのあたりから少し話を始めていただければないでしょうか。
柳川 分かりました。そうですね、よくこういうGo Toキャンペーンのような政策は、「良かったんですか、悪かったんですか」「賛成ですか、反対ですか」という、そういう白黒の二極論で議論がされがちです。今回のGo Toキャンペーンがそのいい例だと思っているんですが、それがどういう点でメリットがあって、どういう点で問題があるか。それぞれの政策は、100パーセント正しくて100パーセント間違っていると白黒がはっきりするわけではないので、それぞれメリットとデメリット、いい点と難しいあるいは悪い点を挙げながら、どういう選択をすべきかということを議論しないといけない。
実際、政策は政治家の人たちがそうしたことを考えているわけですが、やはりそうしたことはもう少し表に出して議論した上で、それぞれの人が判断していくべきだと思うんですね。その上で、Go Toキャンペーンは、おっしゃっていたように、評価する軸がいろいろあって、判断が難しいと思います。
一つは。感染を拡大しつつあるじゃないかという中、「感染を防ぐ」という点では当たり前で、本当なら人はまったく動かないほうが一番いいわけですよね。そうすると、人が動くということは、どうしても感染上はマイナスだと。ところが、誰も動かなければ結局経済は回らないし、そうなると人は生きていけなくなるので、なんらかの形で動かさなきゃいけない。というところのメリット・デメリット、ここを考えなきゃいけないというところに、そもそも難しさがあった。
●「Go To トラベル」キャンペーンという政策が出てきた背景
柳川 特に今回の状況で考えると、Go Toキャンペーンのようなものが出てきた背景にあるのは観光業、それから飲食業の人たち。ここが今、非常に大きな打撃を受けている。一番大きなのはインバウンドで、海外から観光客がいっさい来られなくなったと。それから、海外からだけではなくて、国内の旅行も、自粛という形でほとんど来なくなった。そうすると、売上が九十何パーセント減とか、もうほぼ成り立たないような状況になっているわけですよね。
そうすると、そういう観光業の人たちの生活をどう守っていくのかというところを、大きなポイントとしては考えなきゃいけなくなるわけです。難しいのは、ある意味で今すぐ会社がつぶれたりとか、あるいは場合によっては死に至るとかということでは当然ないわけなんですが、少し先を見たとき、今お客さんが来なければ会社が成り立たなくなる、事業が進まなくなるという可能性が見えている中で、そういう人たちに対してどういう対応をするべきなのか、あるいはしなくていいのか、ということをこちら側で考えなきゃいけなかったということです。
Go Toキャンペーンの一番のポイントはおそらく、そういう非常に苦しい事業者の方々を国が丸抱えでお金を出して救うということができないところでしょう。もし国が救うとなると、かなり巨額の財政支出を出さなきゃいけないが、それは難しい。ですから、できるだけ民間の自主的なお金を活用して、そういう人たちの生活、あるいは事業を守っていくというのが意図だった。
全体で考えると、そこのところは社会的なメリットが大きいと考えられます。そこのバランスをどう考えるかということだったと思います。
●メリット・デメリットのバランスを取るという発想が足りない
―― そのときに、いきなり結論が出てくるのではなく、先生が今言われたメリット・デメリット、それから、今と将来といった、時点的にも非常に違うものを比較していくというところが、日本人はすごく弱いという感じがします。
柳川 そうですね。そもそもメリット・デメリットのバランスを取るというようなところが、どうしても発想としては足りないということと、おっしゃるようにメリットが出てくるのは今すぐの政策からなのか、少し先になる政策からなのかといった、時点がずれた中でどちらをどのくらい評価するかというところに、みんなの思考が落ちていかないという傾向があると思うんで...