●データサイエンスの発展でもっと可能性は広がるはず
―― そのプロセスがはっきりしていれば、これだけITが進み、みんながスマホを持ち、AIがあってデータベースがある時代ですから、先生がよくいわれる経済学で実験をできると。東大の日次物価指数などはそうした一つの実験だと思うんですが、そうしたことがやりやすくなりますよね。問いが立てやすくなると。
柳川 そうなんです。だから、本来は、そういうIT技術だとかデータサイエンスの発展というのは、いろいろな実験をやってみる、あるいはいろいろ細かいデータを集めてみることで、なぜこういうことが起きているのかということを掘り下げていくとか、あるいは、前回私が申しあげたような、あいだの道というか、つまり「Go Toキャンペーンをやるか、やらないか」ではなくて、あいだのやり方のようなことを議論して掘り下げていく。そうすれば、実は一番いいやり方が見つけられるかもしれない。
そういうことも、本当はデータとか、あるいはいろんな情報を集めてみることで浮かび上がってくる可能性があると思うんです。そういうことをやや排除してしまっていて、単純な意見の言い合いになってしまう傾向があるということです。
●政策にもエビデンスに基づいた検証が必要な時代
―― でも、そこはすごくもったいないですよね。今回の場合、(総予算が)1.7兆円ほどつくので、偉大な実験ができるときですよね、本来的には。
柳川 そうなんですよね。だから、最近ですと、EBPM(Evidence Based Policy Making)といって、いろんなエビデンスに基づいて政策を決めていきましょうという機運が世界的に高まってきています。日本でもそういう傾向があり、そういうことをやろうという声が上がってきているんです。
まさに、何か必要だからお金を出す。それはそれであり得る政策だと思うんですけど、ではそのお金の出し方が本当に期待した通りだったのか。あるいは予想もしないことが当然いろいろ起きるわけですが、例えばその予想もしないことが起きたからうまくいかなかったのか、あるいは、もともとのプランがうまくいかなかったのか、そこは実は全然違いますよね、同じようにうまくいかなかったとしても。
―― 違いますね。
柳川 そういうことも含めて、きちっとエビデンスに基づいて検証していく。あるいは、できることなら実験をやった上でこういう方向に出せばいいよな、ということを考えていく。
例えばですが、会社の経営であれば、経営者の方はそういうことをやっていると思うんです。このお金を使って投資効果がどのくらいあるのか。お金を使った後で、うまくいったケースもうまくいかないケースもあるけれども、「うまくいかなかったのは、なぜうまくいかなかったのか」「当初の予想と見込みがどう違ったのか」といったことは、進めながら意思決定につなげていると思うんですね。
それと同じようなことが政府の内政のあり方だとか、政策のあり方というときにも、やはり必要ですし、今は本来そういうことができる時代になっていると思うんです。
●使うお金の目的がごちゃまぜになって政策が行われていることが課題
―― 結局それも、まずは問いを立てて、グレーゾーンに向かってプロセスを踏みながら、かつ実証実験のデータを使えば、例えばこの数値とこの数値とこの数値をパラメータにしようという形で最初から進めることができる。本来はもはや技術的にはそれができるような状況になっているので、それを繰り返していけば、政策の打ち方のレベルが上がってきますよね。
柳川 そうですね、本当にそう思うんですね。やっぱりそういうことをきちっとやっていくことが大事だと思うんです。そのときに少し悩ましいというか、本質的に難しい課題だと思うのは、政策の目的は何かということなんですね。
―― なるほど。
柳川 なので、先ほど企業経営の話をしましたが、企業経営の話であれば、投資に見合うだけのリターンが業績として上がるのかどうかということが基本的な指標になりますので、「何のためにお金を出すのか」という部分がはっきりしていますよね。
―― 企業経営の場合は、はっきりしていますね。
柳川 ところが、政策の場合は、これは何のためにお金を出すのかといったときに、「それはその事業を盛り上げて税収を増やすんだ」という目的もあれば、ある種の公平性だとか、あるいは困っている人を救うという目的もあり、それからもう少し経済の安定性という話もあるということで、実にいろんな目的がごちゃまぜになって、政策が実行される。
少し変な言い方になるかもしれませんが、呉越同舟的な形で「みんなが賛成するから、じゃあ、これ、お金つきました」といったことになっていて、「じゃあ、結局何のためにお金をつけているんでしたか」と...