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日本仏教の「3つの特徴」…世界の仏教との大きな違いとは

【入門】日本仏教の名僧・名著~総論(3)日本仏教と世界仏教

賴住光子
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授
情報・テキスト
仏教は言うまでもなく世界宗教の一つだが、日本仏教は世界のそれとは様相が違うといわれる。仏教学者・中村元氏の研究で明らかになった主な特徴は三つ数えられる。「出世間を重視しない」「戒律を重視しない」「仏教論理学に頼らない」ことだ。そうした特徴のもと、日本仏教は重層的な発展を重ねてきた。(全3話中第3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:10:44
収録日:2020/08/20
追加日:2020/10/08
タグ:
≪全文≫

●世界仏教と日本仏教を比較した中村元


―― もう一つ、先生にお聞きしたいことがあるのですが、前回の講義で「インドから来た大乗仏教の流れ」とおっしゃいました。ここまでは日本の流れを紹介いただきましたが、世界の仏教と比較した場合、日本の特徴というのは、どういうところになるのでしょうか。

頼住 実はそういう研究をされた先駆者の方がおられます。中村元(なかむらはじめ)先生という、仏教研究家・仏教学者として世界的に非常によく知られた方です。中村先生は、比較思想という意味でも、非常に大きなお仕事をされています。

 中村先生はインド仏教を研究されただけでなく、インド思想全体を研究されていたのですが、その後、中国仏教や日本仏教、韓国の仏教、チベットの仏教など、いろいろな地域の仏教を研究されました。

 同じルーツを持っている仏教でも、それぞれの地域での発展の仕方が全然違っています。もちろん歴史的な意味、歴史的な影響ということも大きいと思いますが、中村先生はやはりそれぞれの民族性というものがあるのではないかという仮説を立てられました。

 中村先生は『日本人の思惟方法』『中国人の思惟方法(シナ人の思惟方法)』『インド人の思惟方法』などの著作を書かれ、『チベット人の思惟方法』『韓国人の思惟方法』へと広げていかれました。その中で中村先生は、日本人が仏教を受け入れるときの特徴をいくつか指摘され、それが日本人のある種の傾向や民族性を表しているといわれています。



●「出世間」=出家を重視しない日本仏教


頼住 例えばどういうことを言っているのかというと、まず「しゅっせけんを重視しない」ということを、中村先生はとても大きな特徴として挙げていて、それは「現世主義的」ということにもつながります。

―― 「しゅっせけん」というと、どういう字を書くのですか。

頼住 「世間を出る」と書いて、「出世間(しゅっせけん)」と読みます。

―― いわゆる「出家」のようなイメージですか。

頼住 まさにそうです。もちろん仏教者としては「出家する」のは大切なことですが、それだけではなく、出家をしないで現世において活動することにもちゃんとした意味があるということを、かなり強調していきます。

 初回で聖徳太子について少し触れましたが、まさにこの聖徳太子という人は「篤く三宝を敬え」ということで、自分自身、とても仏教信仰し、国づくりの中でも仏教を生かそうとされた方ですが、彼自身は出家はされませんでした。出家しないままで、仏教信者として、さまざまな活動をすること。そこにも意味があると強調していくことは、他の地域の仏教と比べたときの大きな特徴であると考えられると思います。

―― はい。

頼住 例えばタイなどは、また日本とは違う仏教の展開をしているところです。

―― タイというと、小乗仏教になるのでしょうか。

頼住 そうですね。小乗仏教は今「上座部仏教」といっています。例えばタイでは、男の方は一生に一回はお寺に入って出家するのがいいといわれているらしいのです。もちろんずっとお寺にいるわけではなく、ある期間たったらまた還俗して戻ってくるということらしいですが、それでもやはり一度は出家したほうがいい。そのような考え方が共有されていると聞き及びますが、そのようなタイの仏教と比べて、やはり日本の仏教は出家するところに、そこまでこだわっていない。そこはやはり、日本人のある種の現実性の表れと考えていくこともできるのではないかと思います。

―― はい。


●「戒律」を重視しない日本仏教


頼住 それから、「戒律を重視しない」ということが、日本仏教の大きな特色になると思います。もちろん個々のお坊さんで見ていけば、非常に厳しく戒律を守ったお坊さんもたくさんいます。しかし、全体的に見ると、これは最澄の「大乗戒」というものの影響だといわれていますが、戒律に対する意識がそこまで厳格ではないというようなことはよくいわれています。

―― これは、例えば日本だと、いわゆる肉食(にくじき)やお酒、あとは妻帯についても、別にいいのではないかということを悩みながらされる方もいらっしゃいます。こういったものを全てひっくるめて、「戒律の緩さ」ということになるのでしょうか。

頼住 そうですね。そこは日本仏教の大きな特色ではないかと思われます。

―― これはどうしてなのでしょうか。

頼住 そうですね、歴史的にはやはり最澄が「大乗戒」というものをつくったことでしょう。普通は仏教のお坊さんは、大乗仏教であれ小乗仏教であれ、「二百五十戒を守る」と誓ってお坊さんになるのが基本です。小乗仏教で決められ、大乗仏教でも受け継いできた細かな戒律が、250あるからです。ところが、最澄がいろいろな事情から、「大乗仏教だから大...
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