●トップマネジメントとミドルマネジメントでは求められる資質が違う
―― そうなると、必要になる人材像というのは、どういうイメージになるんでしょうか。
柳川 必要な人材像は、やっぱりそういう大きな全体の最適、あるいは全体の方向転換みたいなことをしっかりマネージできるマネジメント層ですね。やっぱりここが、ずっといわれていることだと思うんですけど、日本には欠けていますし、日本がこれからやっぱり力を入れていくべき分野なんだろうと思いますよね。
―― 前回、戦時中の例をお話しになりましたが、あの当時から現場は強いけれど、いわゆる戦略が下手くそというか、なっていないと言われました。逆に考えると重要なのは、戦略における全体設計というかプロジェクトマネジメントというか、全体を見て大きな方針を打ち出す人材をどう育てていくかというところだと思います。
少し考えてみると、例えば現場レベルでの調整ができる人であれば、なんとなくそういうことは分かるのかなというのがこれまでの日本の考え方でした。つまり、そういうことをやっているうちに全体観をつかんできたら、事業部なりの枢要なポストを任されて、やがて経営陣に入っていくというのがこれまでの日本の流れだと思います。
そうしたこれまでの日本の流れで足りない部分というか、むしろそれがマイナスになっている部分はどういうところなのでしょうか。
柳川 場合によると、ある部門にずっといて、その部門の長をした後すぐトップになって全体調整をしなきゃいけないというようなことが人事に関しては、割と多くの会社で起こってきていることです。しかし、全体の調整とか大きな方向転換のようなことをマネジメントした経験がなく、個別の事業部内での調整しか経験したことがないと、そこはなかなか難しいと思います。
ここには二つのポイントがあります。一つ目ですが、ベーシックな話からすると、日本人だけでもないのかもしれませんが、特に日本について思うのは、「優秀な人はなにをやっても優秀だ」という感覚があることです。だから、現場で優秀な人はマネジメントも優秀なはずだし、部門長をやれた人はトップもやれるはずだという、こういう感覚があるんだと思うんです。しかし、これは必ずしも正しくないと思うんですね。それぞれに特性があったりしますし、その仕事を経験していないと、他のところで優秀でも、そこに来てすぐ優秀な結果が残せるというわけにはいかないんだろうということです。
それから二つ目として、全体調整とか全体の大きな方向転換という点でいくと、大きな部分でのリスクのバランスを考えたり、一方である種のリスクを取って進めたりしなければいけないというようなところがあるのですが、個別の部門でやっていると、そういうことはあまり考えなくても良かったというケースがあるということです。これも会社によりますし、産業にもよると思いますが、多くの場合、トップマネジメントをやることと、部門のところのミドルマネジメントをやることでは、求められる資質はずいぶん変わってくるのではないかと思います。
なので、そう考えると、トップマネジメントをしっかりやろうとするなら、トップマネジメントの経験を積むことが必要になってくるのではないかと思うんですね。
―― そこは明確に違うわけですね。
柳川 多くの場合、そう思います。もちろん、全ての産業、全ての企業に当てはまるわけではないと思いますが、違う資質だと考えた方がいいでしょう。
そうすると、ある種の人材育成のあり方としては、まずは小さい会社でもいいからトップマネジメントの経験を積んでみる、しかもそれを早い段階、若い段階で経験することが、将来大きな会社のトップマネジメントをやっていくうえで大事なことなのではないかと、私自身は思っています。
―― 先生のイメージですと、若い段階というと、いくつぐらいのイメージですか。
柳川 30代です。
―― その頃に小さい会社の社長をやってみると。
柳川 今はベンチャーの会社だと20代の社長はいっぱいいるわけですからね。全体的に会社を回してみるということでいえば、それくらいから経験して、そのあとで少しずつ大きな会社をやってみるという経験を積んでいくということです。
実際に現在、割とうまくいっているトップは、どこかの子会社の社長を長年つとめていたというケースがかなり多く、ある種のトップマネジメントの経験が、大きな会社のマネジメントに生きているというのはかなりあると思います。
●少し自分より上のポジションになったとき、どう見えるかを考える
柳川 例えば全然違う事例ですが、サッカーの監督の話でいうと、本場のヨーロッパではいきなりトップチームの監督になったりしないわけです。まずは弱小チームの監督...