●「MMT(現代貨幣理論)」は果たして有効な理論なのか
―― もう一つ、今日どうしてもお聞きしておきたかったことがあります。「MMT(現代貨幣理論)」が出てきて、「国が(紙幣を)刷ればなんぼでも金は出てくる」とか、「どんどん刷れば良い」「経常黒字の間は構わない」という相当乱暴な議論があります。異次元金融緩和までは良かったと思いますが、ある程度効果が止まった段階で、また次に、そうした乱暴な議論が出てくる。この段階までくると、フェイクニュースではないですが、危ない暴論的な感じがあり、議論が極端になっていきます。結局、自分たちで稼ぎに行くよりも、永田町と霞ヶ関にワアワア言いに行ったほうが、金が出てくると思っている感じがします。これに関してはどのように感じていますか。
岡本 そうですね。時々誤解されますが、財務省は、「借金して国債をどんどん出して歳出を増やすなんてとんでもない」と原理主義的に言っているわけではありません。まさに今回のコロナ対策の70兆円以上は全て国債で賄います。当然、必要なときにはそれをやらないといけません。これは当たり前です。
ところが、「これができるのであれば、もうずっとこれでいいじゃないか」「最後に日銀が吸い上げていれば、金利なんか上がらないじゃないか」という人がいます。
まさに財政学の教科書にある原則的な話ですが、かつて私たちは財政再建の必要性について、常にこう言っていました。「歳出が膨らんで借金が増えてくると、いずれまた金利が上がる。金利が上がって利払い費が増えると、予算に占める利払い費が増えて、他の歳出が厳しくなる。最後はハイパーインフレが起きる可能性がある」ということです。この原理は今でも全く変わりません。
●グローバル化経済における財政危機の特徴
岡本 経済がグローバル化している中で、実はギリシャ危機を境にして、財政危機の構造が大きく変わっていると思います。なぜギリシャというあんなに小さな国の財政問題が、ヨーロッパ全体、世界全体を揺るがすような議論に、そしてそれが危機になったのでしょうか。それは結局、その国の国債を他の国の金融機関が持っているからです。そうすると、その金融機関のバランスシートの危機になってしまいます。日本もかつてそれを乗り越えるときにやりましたが、金融危機に対しては公的資金を出します。公的資金も当然、借金です。
ところが財政危機発の金融危機になっているときに国債を出そうとしても、金利が高くなってしまっているので出せません。唯一の手段である公的資金による手当てができないと見透かされると、より金融危機が進んでしまい、一気にメルトダウンが起きてしまいます。それが起きたことが、まさにギリシャ危機の本質です。
伝統的な財政危機の議論にあるように、いずれ金利が上がって、利払い費が増えて、またインフレが起きるというのはその通りだと思います。そして、それには一定の時間がかかるのが普通だと思います。しかし、今は財政危機を原因として金融危機を招いてしまうと、本当にスパイラル的にあっと言う間に危機が深まってしまうことをこの間、経験しました。やはり、このことをよく考えておかないといけません。
必要なときには、お金がないからといってためらうのではなく、国債を出してでも必要なことはやらないといけません。ただ、毎年使う社会保障をずっと国債を刷ってやっていって良い、極端な話でいうと、年金をずっと国債を出し続けて払い続けて良いというような方は基本的にいないのではないかと私は思います。必要なときにやることと、恒常的にやって良いことは違います。
特に日本の場合は、社会保障のアンバランスから実は財政赤字になっています。これをこのままにしておいて良いというのは、国債をずっと発行し続けることで医療費や年金を払っていきましょうと言っているのに等しいことです。これはどう考えても持続可能だとは思えません。
「いやいや、今みたいに出していても、金融政策で金利は上がらないじゃないか」というご指摘もあると思います。確かにこれはかつて想定していなかったことです。ただ、日銀の今の金融政策は、これをスタートさせた時のアコード(政策協定)にあるように、政府が財政健全化の努力を続けることが前提となってやっています。あくまで財政ファイナンスではないという前提でやっているのです。
しかしどこかで、これも結局は財政ファイナンスでお札を刷っているだけだと思われる可能性がある。金融政策で金利を上げずにいたら、確かにかつて言っていたように金利が上がって将来云々ということは起きないかもしれません。しかし、逆に円という通貨の価値がすごく下がっていることが見透かされて、これをきっかけとして為替に大きな変動が生じた場合、今の日本国...