「万葉集」の聖徳太子――語りかける人
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『万葉集』に収載されている聖徳太子の歌とは
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(2)伝説上の人物・上宮聖徳皇子の歌
芸術と文化
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
『万葉集』には聖徳太子の歌も収載されている。編纂された8世紀の半ば頃には伝説上の人物となっていた彼は、そこでは「上宮聖徳皇子」という言い方をされている。その歌が巻の三にある「家ならば 妹が手まかむ 草枕 旅に臥やせる この旅人あはれ」だ。これを上野先生は「聖徳太子の物語の一コマだ」というが、この歌にはどのような意味が込められているのか。(全6話中第2話)
時間:11分36秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年7月23日
≪全文≫

●歌と物語と日本人


 今日は、皆さんと一緒に『万葉集』の聖徳太子の歌、『日本書紀』の聖徳太子の歌を取り上げてお話をしたいと思います。

 「えっ、聖徳太子は歌をうたったのか」とか「聖徳太子の歌は『万葉集』にあるのか」と驚かれる人もいるでしょう。

 歌というものは情感であり、心の働きは情です。それに対して、語りというものは論理を伝えます。「こうなって、こうなって、こうなった」。その間にどう思ったかということは、実は歌が担うものなのです。

 そのように理解すると、日本人は人の心を動かす情というものを歌で表現していったと考えられる。そうすると、聖徳太子の場合も、その思いを歌で表現することがあっただろうと理解してよろしいかと思います。


●龍田山の死人を見てつくられた太子の歌


 『万葉集』では聖徳太子の歌が巻の三に収載されています。『万葉集』を学習していらっしゃる方は、国歌大観番号の415番といえばお分かりでしょう。資料としてお示ししますので、特に『万葉集』を持っておられなくても結構です。読んでみたいと思います。

 「上宮聖徳皇子、竹原井(たかはらのゐ)に出遊(い)でましし時に、龍田山の死人を見悲傷して作らす歌一首<小墾田宮に天の下治めたまひし天皇の代。小墾田宮に天の下治めたまひしは豊御食炊屋姫(とよみけかしきやひめの)天皇なり。諱(いみな)は額田、諡(おくりな)は推古>」

 「家ならば 妹が手まかむ 草枕 旅に臥(こ)やせる この旅人あはれ」

 このような歌です。最初に「題詞」として説明が付いています。その説明を読んでいくと「上宮聖徳皇子」という言い方をしています。現在、私たちには「聖徳太子」が一般的ですが、こう呼んでも差し支えはありません。「上宮というところの宮に住んでいる、聖の徳を持った天皇の子」ということで「上宮聖徳皇子」。これも後から奉られた名前ですけれども、そのように呼ばれることもおそらくあったのでしょう。

 「上宮聖徳皇子、竹原井」。現在の大阪府柏原市の高井田というところに「竹原井の跡」という場所があります。その竹原井に「出遊でましし時に」詠まれた。「出遊でます」は「いる、行く」の尊敬語ですから、「いらっしゃったときに」です。ここから少し大和のほうへ歩いていくと「龍田山」という山があります。その龍田山の死人を見て、悲しんでお作りになった...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子

人気の講義ランキングTOP10
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(3)共同保育を現代社会に取り戻す
狩猟採集生活の知恵を生かせ!共同保育実現に向けた動き
長谷川眞理子
トランプ・ドクトリンと米国第一主義外交(1)リヤド演説とトランプ・ドクトリン
トランプ・ドクトリンの衝撃――民主主義からの大転換へ
東秀敏
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(2)外交と軍事のバランス
外政家・原敬とは違う…職業外交官・幣原喜重郎の評価は?
小原雅博
数学と音楽の不思議な関係(3)音と三角関数とフーリエ級数
フーリエ解析、三角関数…数学を使えば音の原材料が分かる
中島さち子
「集権と分権」から考える日本の核心(5)島国という地理的条件と高い森林率
各々の地でそれぞれ勝手に…森林率が高い島国・日本の特徴
片山杜秀
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
大統領に告ぐ…硫黄島からの手紙の真実(1)ルーズベルトに与ふる書
奇跡の史実…硫黄島の戦いと「ルーズベルトに与ふる書」
門田隆将
第2の人生を明るくする労働市場改革(2)前提が崩れた日本的雇用慣行
日本人全員ではない…日本的雇用慣行のターゲットは誰?
宮本弘曉
キケロ『老年について』を読む(1)キケロの評価と「老年の心構え」
老年が惨めと思われる4つの理由とは…キケロの論駁に学べ
本村凌二
50代からの親の介護~その課題と準備(1)突然やってくる介護の問題
「親の介護」の問題…優しさだけでは続かない
太田差惠子