「万葉集」の聖徳太子――語りかける人
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
古代国家が理想としたのは聖徳太子の「徳治政治」
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(5)聖の徳
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
聖徳太子の歌には後日談がある。太子があわれみをかけた行旅人は、死体を残さず消えていた。そう聞いた太子は「神様だったのかもしれない」という。聖を知る太子はまさに聖だと世の人は畏れかしこんだ。そのような太子の徳は、後の世に伝えられ手本となった。それが律令制下における「徳治思想」である。(全6話中第5話)
時間:13分34秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年8月13日
≪全文≫

●「この旅人あはれ」の後日談


 (聖徳太子の歌には)後日談もあります。どういうものかというと、『日本書紀』に次のように書いてあります。

「数日之後(ひをへて)、皇太子、近習の者(ひと)を召して、謂(かた)りて曰はく」

 片岡山で会った「飢えたる人」が死んでしまってお墓に葬られる。その後、数日を経て皇太子は「近習の者」、つまり周りにいた人々を集めて語って言った。

「先日(さきのひ)に、道に臥(こや)せし飢者、それ凡人(ただひと)に非(あら)じ」

 「前に倒れていた人は、どうも普通の人ではない」。これは凡人ではない、と太子は言うのです。次に「必ず真人ならむ」と出てきます。「真人」というのは、道教で奥義を究めて神仙になった人のことですから、「これは大変な人だ。神に準ずる人かもしれないぞ」というわけです。

「必ず真人ならむとのたまひ、使を遣して視せしめたまふ」

 (使いに)見に行かせたら、遺体がなかったというわけです。ちょっと難しい言葉で「尸解仙(しかいせん)」と言いますが、聖人は遺体がなくなるという伝説が、東アジアには広く流布していました。だから、死体がなくなった。ああ、あれは神様だったのか、ということになったわけです。

 しかも衣服がたたまれて、棺の上に置かれていた。太子はまた使いを出し、その衣を持ちかえらせて、いつものようにまた着た。そして、「ああ、あれは神様だったのだ」というわけです。


●「聖の聖を知ること」とは


 その後、『日本書紀』の記述には、「時人、大(おほ)きに異(あや)しびて曰(いは)く」とあります。時の人たちは大いに聖徳太子の偉大さに気づき、それをあやしくさえ思って、こう言います。

「聖の聖を知ること、それ実(まこと)なるかも」

 聖というものは聖にしか分からない、聖だけが聖というものが分かるというのは、本当だったなあといって、「逾惶」(いよいよかしこまる)のですから、聖徳太子に対する尊敬の念がますますいや増した、といっているわけです。

 本当の人の偉さというものは、その人と同じぐらい偉くないと、その偉さというのは分からないと私は思います。

 これは余談ですが、勝海舟に幕末のことを問いただした人がいた。「もっと将軍のために頑張って戦...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ルネサンス美術の見方(1)ルネサンス美術とは何か
ルネサンスはどうやって始まった?…美術の時代背景
池上英洋
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(1)シェイクスピアの謎
シェイクスピアの謎…なぜ田舎者の青年が世界的劇作家に?
河合祥一郎

人気の講義ランキングTOP10
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二
徳と仏教の人生論(4)克己と天壌無窮
横井小楠が説く「世界の幸せのお世話係」こそ日本の使命
田口佳史
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(5)社会的共通資本によるプラチナ社会へ
「日本に来れば未来が見える」…希望があるうちにやろう!
小宮山宏
経験学習を促すリーダーシップ(2)経験から学ぶ力
米長邦雄のアンラーニング、弟子の弟子になってV字成長
松尾睦
「アカデメイア」から考える学びの意義(1)学びを巡る3つの危機
「学びの危機」こそが現代社会と次世代への大きな危機
納富信留
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
現在の宇宙の姿(1)星はなぜ自ら輝くのか
宇宙に関するニュースを理解するために宇宙の姿を学ぶ
岡村定矩