「万葉集」の聖徳太子――語りかける人
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『日本書紀』で伝えられた聖徳太子と歌の物語
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(3)歌の背景としての物語
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
歌は感情の吐露だから、その歌が出てきたときの背景として、物語がある。物語とは、亡くなった人の言動を語り伝えることも指すのだが、その語りによって人はよみがえり、それが供養につながるのである。『万葉集』所載の聖徳太子の歌にも物語があった。それが『日本書紀』に収められているのだ。(全6話中第3話)
時間:10分39秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年7月30日
≪全文≫

●仏教も偉人伝も語りによって伝えられた


 こういう話がお好きな人で、例えば初期仏教や原始仏教というものに関心を持っておられたら、お釈迦さまが亡くなった後の話をご存じでしょう。

 お釈迦さまが亡くなった100年後、弟子たち(弟子の弟子ぐらいかもしれません)が集まって、お釈迦さまの言葉がどのように伝わっているかを口頭で言い合う。それが仏典にまとめられて、『スッタニパータ』や『ダンマパタ』といわれるものになります。

 それと同じように、語りによって物事は伝えられていく。「語り伝えていく」ということを、実は私は大切なことだと思います。書き付けが残っているからいいというものではないと思うのです。どういうことかというと、語ることによって、その人は人間の心の中によみがえります。語られたその人は、生きているのです。

 例えば、自分は今、松下幸之助さんの力によって電気店を営んでゆくことができる。その人の考え方が支えになっているということであれば、「松下幸之助さんというのは、こういう人でね」と、その人が語っていくことに意味があるわけです。


●語りの中で人はよみがえっていく


 例えば、おじいさんやおばあさんが亡くなって、四十九日、一周忌、三回忌、七回忌を行います。そのたびに「亡くなったおじいちゃんは、こういう人だったね」「おばあちゃんは、こういう人だったね」と語っていくことが大切なのです。

 そう言うと、お坊さんは「いやいや、お経が大切だ」というかもしれませんが、私に言わせれば、お経はみんなが集まるためのものです。お花を飾るといっても、お花は人に向けて飾られているのであって、仏様のほうに向けて飾ってはいない。お供え物をするといっても、お供えした後はみんなで食べます。食べて、みんなでおじいさんやおばあさんのことを語っているうち、心の中によみがえってくるのです。

 現在でも、私が「家ならば 妹が手まかむ 草枕 旅に臥せる この旅人あはれ」といったら、「おお、聖徳太子という人はそういうふうに語ったのか。そういうふうに語りかけたのか」と、その話がよみがえってくるでしょう。

 そういう語りの中で人間はよみがえっていくものだと私は考えています。死んだ自分の先生、死んだ父親や母親、死んだおじいちゃんやおばあちゃんのことを私が語っていく...

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