「万葉集」の聖徳太子――語りかける人
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『日本書紀』で伝えられた聖徳太子と歌の物語
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(3)歌の背景としての物語
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
歌は感情の吐露だから、その歌が出てきたときの背景として、物語がある。物語とは、亡くなった人の言動を語り伝えることも指すのだが、その語りによって人はよみがえり、それが供養につながるのである。『万葉集』所載の聖徳太子の歌にも物語があった。それが『日本書紀』に収められているのだ。(全6話中第3話)
時間:10分39秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年7月30日
≪全文≫

●仏教も偉人伝も語りによって伝えられた


 こういう話がお好きな人で、例えば初期仏教や原始仏教というものに関心を持っておられたら、お釈迦さまが亡くなった後の話をご存じでしょう。

 お釈迦さまが亡くなった100年後、弟子たち(弟子の弟子ぐらいかもしれません)が集まって、お釈迦さまの言葉がどのように伝わっているかを口頭で言い合う。それが仏典にまとめられて、『スッタニパータ』や『ダンマパタ』といわれるものになります。

 それと同じように、語りによって物事は伝えられていく。「語り伝えていく」ということを、実は私は大切なことだと思います。書き付けが残っているからいいというものではないと思うのです。どういうことかというと、語ることによって、その人は人間の心の中によみがえります。語られたその人は、生きているのです。

 例えば、自分は今、松下幸之助さんの力によって電気店を営んでゆくことができる。その人の考え方が支えになっているということであれば、「松下幸之助さんというのは、こういう人でね」と、その人が語っていくことに意味があるわけです。


●語りの中で人はよみがえっていく


 例えば、おじいさんやおばあさんが亡くなって、四十九日、一周忌、三回忌、七回忌を行います。そのたびに「亡くなったおじいちゃんは、こういう人だったね」「おばあちゃんは、こういう人だったね」と語っていくことが大切なのです。

 そう言うと、お坊さんは「いやいや、お経が大切だ」というかもしれませんが、私に言わせれば、お経はみんなが集まるためのものです。お花を飾るといっても、お花は人に向けて飾られているのであって、仏様のほうに向けて飾ってはいない。お供え物をするといっても、お供えした後はみんなで食べます。食べて、みんなでおじいさんやおばあさんのことを語っているうち、心の中によみがえってくるのです。

 現在でも、私が「家ならば 妹が手まかむ 草枕 旅に臥せる この旅人あはれ」といったら、「おお、聖徳太子という人はそういうふうに語ったのか。そういうふうに語りかけたのか」と、その話がよみがえってくるでしょう。

 そういう語りの中で人間はよみがえっていくものだと私は考えています。死んだ自分の先生、死んだ父親や母親、死んだおじいちゃんやおばあちゃんのことを私が語っていく...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
ピアノでたどる西洋音楽史(1)ヴィヴァルディとバッハ
ピアノの歴史は江戸時代に始まった
野本由紀夫
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
岡倉天心『茶の本』と日本文化(1)岡倉天心の生涯
岡倉天心の『茶の本』…世界に向けた日本伝統文化の発信
大久保喬樹
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
数学と音楽の不思議な関係(1)だれもがみんな数学者で音楽家
世界は音楽と数学であふれている…歴史が物語る密接な関係
中島さち子
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆

人気の講義ランキングTOP10
徳と仏教の人生論(1)経営者の条件と50年間悩み続けた命題
宇宙の理法――松下幸之助からの命題が50年後に解けた理由
田口佳史
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(6)評価制度設計と「夢」の重要性
なぜ二本立ての評価制度が必要か…多種多様な人材の評価法
水野道訓
いま夏目漱石の前期三部作を読む(1)夏目漱石を読み直す意味
メンタルが苦しくなったら?…今、夏目漱石を読み直す意味
與那覇潤
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ケルト神話の基本を知る(1)ケルト地域と3つの神話群
ケルト神話とは…ダーナ神族、アルスター神話、フィアナ神話
鎌田東二
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(2)言葉を理解するプロセスとスキーマ
なぜ子どもは教えられても理解できないのか?鍵はスキーマ
今井むつみ
東大ハチ公物語―人と犬の関係(1)上野英三郎博士とハチ
忠犬ハチ公で哲学する…人と犬の関係から見えてくる道徳論
一ノ瀬正樹
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫