「万葉集」の聖徳太子――語りかける人
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聖徳太子は歌によって問いかけた人である
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(4)姓名・食事・衣服・歌を与える意味
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
聖徳太子の歌の背景には、飢えて倒れた旅人に寄り添い、姓名を問い、食事、衣服、歌を与えたという経緯があった。「姓名を問う」とは、相手を尊重することの第1番目にある。では歌を与えること、人に思いのこもった声をかけることの意味はどこにあるのだろうか。マザー・テレサの事蹟を参考に語っていく。(全6話中第4話)
時間:13分38秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年8月6日
≪全文≫

●「姓名を問う」は、相手を尊重することの第1番目


 後半の話をしていきたいと思います。聖徳太子は「歌いかける人である」ということを言いました。これは、『万葉集』にも『日本書紀』にも載っているので、「聖徳太子が歌によって相手に問いかけた人である」という話が8世紀の人たちには広く知られていたのだと思います。

 そのときに、最初に姓名を問う。食事を与える。そして衣服を与え、歌を与えるという順番ですが、姓名を問うことは、相手を尊重することの第1番目にきています。

 つまり、相手がどういう名前を持っているかを尊重する。名前には、それを付けた人もいれば、地域や学校でどう呼ばれて尊重されてきたかにもつながる。名前は、極めて大切なものなのです。

 私がいまだに忘れられないのは、1980年代の後半にポーランドから留学生が来た時のことです。「カミニスカ」というのが、そのポーランドから来た金髪の女子学生のお名前でしたが、ある時、男子学生が「カミニスカヤ」と呼びかけました。私はその横にいたのですが、みるみるうちにその人の顔色が変わり、「私はカミニスカであって、カミニスカヤじゃない」と涙ながらに抗議をしました。これは何を意味しているのか。私もそれが分かったのは3年ぐらい後でした。

 いわゆる「ベルリンの壁」が厚かった時代、ポーランドは実質的にソヴィエト連邦の支配を受けていた時期でもあったわけです。一方でポーランドの人々はカトリックの信者でもありますので、ポーランドの文化=カトリックの文化に誇りを持って、大切にしようとしていました。したがって、ロシア風に「カミニスカヤ」と呼ばれると、自分を否定されたような気分になったのでしょうね。私にはそういう思い出があります。


●「食事」はともに和むこと、「衣服を与える」は「慈悲の心」


 例えば国際学会に出ると、難しいことがあります。こちらがフッと綴りを読んでも、その人(本人)がどのように読むかはまた別なのです。「ミルセアと呼んだほうがいいでしょうか。ミルチャーと呼んだほうがいいでしょうか」ということもあれば、「キムさんと呼んだほうがいいですか。キンさんと呼んだほうがいいですか」ということもあります。名前を呼ぶのは、相手を尊重することの最初なのです。それは、他者を敬う心です。

 私は思うのですが、物をもらう側にもプライドがあります。物をも...

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