「万葉集」の聖徳太子――語りかける人
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
聖徳太子は歌によって問いかけた人である
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(4)姓名・食事・衣服・歌を与える意味
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
聖徳太子の歌の背景には、飢えて倒れた旅人に寄り添い、姓名を問い、食事、衣服、歌を与えたという経緯があった。「姓名を問う」とは、相手を尊重することの第1番目にある。では歌を与えること、人に思いのこもった声をかけることの意味はどこにあるのだろうか。マザー・テレサの事蹟を参考に語っていく。(全6話中第4話)
時間:13分38秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年8月6日
≪全文≫

●「姓名を問う」は、相手を尊重することの第1番目


 後半の話をしていきたいと思います。聖徳太子は「歌いかける人である」ということを言いました。これは、『万葉集』にも『日本書紀』にも載っているので、「聖徳太子が歌によって相手に問いかけた人である」という話が8世紀の人たちには広く知られていたのだと思います。

 そのときに、最初に姓名を問う。食事を与える。そして衣服を与え、歌を与えるという順番ですが、姓名を問うことは、相手を尊重することの第1番目にきています。

 つまり、相手がどういう名前を持っているかを尊重する。名前には、それを付けた人もいれば、地域や学校でどう呼ばれて尊重されてきたかにもつながる。名前は、極めて大切なものなのです。

 私がいまだに忘れられないのは、1980年代の後半にポーランドから留学生が来た時のことです。「カミニスカ」というのが、そのポーランドから来た金髪の女子学生のお名前でしたが、ある時、男子学生が「カミニスカヤ」と呼びかけました。私はその横にいたのですが、みるみるうちにその人の顔色が変わり、「私はカミニスカであって、カミニスカヤじゃない」と涙ながらに抗議をしました。これは何を意味しているのか。私もそれが分かったのは3年ぐらい後でした。

 いわゆる「ベルリンの壁」が厚かった時代、ポーランドは実質的にソヴィエト連邦の支配を受けていた時期でもあったわけです。一方でポーランドの人々はカトリックの信者でもありますので、ポーランドの文化=カトリックの文化に誇りを持って、大切にしようとしていました。したがって、ロシア風に「カミニスカヤ」と呼ばれると、自分を否定されたような気分になったのでしょうね。私にはそういう思い出があります。


●「食事」はともに和むこと、「衣服を与える」は「慈悲の心」


 例えば国際学会に出ると、難しいことがあります。こちらがフッと綴りを読んでも、その人(本人)がどのように読むかはまた別なのです。「ミルセアと呼んだほうがいいでしょうか。ミルチャーと呼んだほうがいいでしょうか」ということもあれば、「キムさんと呼んだほうがいいですか。キンさんと呼んだほうがいいですか」ということもあります。名前を呼ぶのは、相手を尊重することの最初なのです。それは、他者を敬う心です。

 私は思うのですが、物をもらう側にもプライドがあります。物をも...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
日本画を知る~その技法と見方(1)写実・写意・写生
日本画で大切な「写意」「写生」の深い意味とは?
川嶋渉
万葉集の秘密~日本文化と中国文化(1)万葉集の歌と中国の影響
『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響
上野誠
百人一首の和歌(1)謎の多い『百人一首』
『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎
渡部泰明
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明
和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1
ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?
渡部泰明
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純

人気の講義ランキングTOP10
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(3)秀吉出世譚の背景
武闘派・秀吉として出世…織田家中で一番の武略者の道
黒田基樹
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
編集部ラジオ2025(32)哲学者たちが考えた平和追求
反EU、反国連の時代に再考!「哲学者たちの平和追求」
テンミニッツ・アカデミー編集部
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境にどう対峙するか…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(2)バイアスの正体と情報の抑制
『100万回死んだねこ』って…!?記憶の限界とバイアスの役割
今井むつみ