「万葉集」の聖徳太子――語りかける人
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
『万葉集』に収載されている聖徳太子の歌とは
第2話へ進む
聖徳太子と日本人…「実在しなかった」説の真相とは?
「万葉集」の聖徳太子――語りかける人(1)日本人の憧れ
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授(特別専任)/奈良大学 名誉教授)
2021年は聖徳太子の1400回忌にあたる。彼が創建したとされる法隆寺では100年に一度の法要が営まれ、夢殿本尊救世観音像などの特別開扉も始まっている。彼はなぜ千年の時を超えた強い憧れや尊敬の的なのか。また、「実在しなかった」という議論があるが、それはどういうことなのか。シリーズでは『万葉集』に残された歌などを通して、聖徳太子と日本人の関係を掘り下げていく。(全6話中第1話)
時間:8分21秒
収録日:2021年6月4日
追加日:2021年7月16日
≪全文≫

●1400年遠忌を迎える聖徳太子への憧れと尊敬


 ご機嫌いかがでしょうか。上野誠でございます。今日の視聴者はネットで勉強をするという方々ですね。

 聖徳太子が生まれ、亡くなってから1400年という時間が過ぎました。そのために昨年(2020年)からさまざまな催しが行われ、今後数年ほどそれが続く見込みです。聖徳太子という人に対する日本人の憧れや尊敬のようなものの大きさを、私たちはいろいろなところで感じていると思います。

 いったいどういうことかというと、まず聖徳太子が厩(うまや)で生まれたという生い立ちがあります。救いの主が厩のような適切でない場所で生まれるというのは、おそらく救済者が貧しい人々の心に寄り添うことを表しているのではないでしょうか。キリストの生誕の物語と通ずるところもありますが、これはどちらかが真似したということではなく、おそらく貧しい人々の心に寄り添うということなのでしょう。

 聖徳太子は仏教を深く信仰し、学問に努めました。学問に努めるだけではなく武術にも優れ、馬に乗って富士山を駆け上がったともいわれる。そうしたスーパーマンのような存在でもあるわけです。

 さらに親孝行をし、父、用明天皇の病気平癒のために祈る。聖徳太子の祈る姿は、平安時代以降たくさん描かれています。そうした祈る人や親孝行の人のイメージの上で、仏教を日本に広めた人でもある。仏教は西からやってきて日本で広まりましたが、仏教の東端はおそらく日本と考えてもいいと思います。


●「聖徳太子という人物は実在しなかった」という議論


 さらに大きな話をしますと、日本で広がった仏教というものを西洋キリスト教社会、特に英語圏やドイツ語圏に広く翻訳し、広めた鈴木大拙という人物がいます。つまり仏教を広めた英雄を日本で1人挙げろといわれれば、聖徳太子だし、西欧世界に広げた人物というと鈴木大拙ということになります。

 先年亡くなったスティーブ・ジョブズが禅に対して極めて高い評価をし、自分自身も禅者として生きようとしたことは、日本のビジネスマンにとって有名な話ですが、彼の仏教理解のおおもとは鈴木大拙にあります。

 それらを合わせて1000年単位で見ていった場合、聖徳太子の大きさというものは計り知れないと考えればいいと思います。

 ところが、今を去る二十数年前、「聖徳太子という人物は実在しなかった」という議...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「芸術と文化」でまず見るべき講義シリーズ
和歌のレトリック~技法と鑑賞(1)枕詞:その1
ぬばたまの、あしひきの……不思議な「枕詞」の意味は?
渡部泰明
クラシックで学ぶ世界史(1)時代を映す音楽とキリスト教
音楽はなぜ時代を映し出すのか?…音楽と人の歴史の関係
片山杜秀
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(1)北斎の画狂人生と名作への進化
葛飾北斎と応為…画狂の親娘はいかに傑作へと進化したか
堀口茉純
なぜ働いていると本が読めなくなるのか問答(1)読書と教養からみた日本の近現代史
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』で追う近現代史
三宅香帆
『源氏物語』を味わう(1)『源氏物語』を読むための基礎知識
源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方
林望
『古今和歌集』仮名序を読む(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
渡部泰明

人気の講義ランキングTOP10
「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎
豊臣兄弟~秀吉と秀長の実像に迫る(2)秀吉の実像と「太閤神話」
秀吉・秀長の出自は本当は…実像は従来のイメージと大違い
黒田基樹
平和の追求~哲学者たちの構想(6)EU批判とアメリカの現状
理想を具現化した国連やEUへの批判がなぜ高まっているのか
川出良枝
戦争とディール~米露外交とロシア・ウクライナ戦争の行方
「武器商人」となったアメリカ…ディール至上主義は失敗!?
東秀敏
熟睡できる環境・習慣とは(1)熟睡のための条件と認知行動療法
熟睡のために――自分にあった「理想的睡眠」の見つけ方
西野精治
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
生成AI「Round 2」への向き合い方(1)生成AI導入の現在地
生成AIの利活用に格差…世界の導入事情と日本の現状
渡辺宣彦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
組織心理学とは何か~『武器としての組織心理学』と概論
なぜ組織に「心理学」が必要か?多様化と個の時代の処方箋
山浦一保
逆境に対峙する哲学(1)日常性が「破れ」て思考が始まる
逆境に対峙する哲学…西洋哲学×東洋哲学で問う知的ライブ
津崎良典