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豊臣秀吉でさえ自信を持ったら「バカなじいさん」になった

自信について(1)現代は「自信教」にまみれている

対談 | 執行草舟田村潤
情報・テキスト
執行草舟と田村潤氏が、「自信」についてどう考えるべきかを論じあう対論。最近の日本は、とくに若い人で自分の仕事に自信がない人が多い。もちろん、そうなってしまった大きな要因としては、日本の大家族主義的な気風が失われてしまったことが大きく関係している。しかし一方で、戦後の日本社会では「自信を持たなければならない」という教育をしていたために、その反作用で、逆に自信を失った面もあるのではないだろうか。そもそも、「自信など持たないほうがいい」というのが日本の伝統的な考え方だった。豊臣秀吉も全国制覇して自信を持ったら、「バカなじいさん」になってしまった。(全12話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:50
収録日:2022/01/25
追加日:2022/03/25
カテゴリー:
キーワード:
≪全文≫

●自信は「主観的な思想」なのか? 「客観的な思想」なのか?


―― 皆さま、こんにちは。本日は執行先生、田村先生に「自信について」というテーマでお話をいただきたいと思います。両先生、どうぞよろしくお願いいたします。

執行 はい、よろしく。

田村 よろしくお願いします。

―― 今回のテーマは「自信について」ですが、田村先生、最近の日本では、なんとなく自信がなくなっているというか、自信に満ち溢れている人をそれほど見かけない気がします。ここについては、いかがでしょう。

田村 海外の調査と比較しますと、とくに日本の若い人で「自分の仕事に自信がない」という人が異常に多いです。私が会社に入ったのは50年近く前ですが、当時は先輩と部下との関係が非常に濃密でした。ほったらかしにされず、常に先輩が面倒を見る。そういう時代に私は若いとき、いました。

 すると現場で困難に直面しても、どうにかこうにか乗り越えていく経験をみんな持つのです。その中から自信というものが出てくるのですが、日本で成果主義が導入されてから先輩がそれどころでなくなり、いわば放置される状態が続いています。そこから仕事を通じて自信を得るプロセスが、非常に持ちづらくなっているのです。

 それから、もう一つアメリカのギャラップの調査で、社員のやる気度、熱意ある社員が何%いるかを調べたものがあります。日本は139カ国中132位で、熱意ある社員の比率は6%でした。これは4年前の調査で、大体似たような調査をやっていますが……。

執行 今年も同じでしょう、大体。

田村 そうですよね。ということは仕事に燃えていないのです。つまり難苦を乗り越えて頑張ると、また新しい地平が見えて、新しい課題が出てくる。それを、また乗り越える。そんな経験が持てないから、結果として自信がないのだと思います。

―― そういう全体状況についてはいかがですか。

執行 非常に納得できる意見ですが、私は「逆作用」が起きているように思います。戦後の日本は「自信を持たなければいけない」という教育をしています。その反作用で、逆に(自信を)みんな失ってしまった気がします。

 私の根本理論でいうと、自信とは持ってはダメなのです。これが日本の伝統的な考えです。「自信を持ったら、ただのバカ」というか……。これは「主観」と「客観」の問題です。哲学では「主観的な思想」なのか、「客観的な思想」なのかという二つの大きな問題があります。自信とは「客観の思想」なのです。

 仕事をバリバリやっている人間や、何か成果のあがった人、芸術家でも実業家でも成功した人などを横から見て「あの人は自信に満ちている」という概念なのです。だから本人が言うことではない。

 それなのに自信のある生き方をさせようとして、「自信を持て」「持て」「持て」「持て」と言っているのが現代社会です。私は『生くる』(講談社)という最初に出した人生論で、これを「自信教」と書きました。現代は「自信教」にまみれていると思います。それによって逆に(自信を)失っているのです。

 今、田村さんが言ったように、昔の日本は大家族制度で、「会社も全部家族」のような感じでした。そうすると、田村さんもたぶん若い頃はそうだと思いますが、今(の視点)から考えているので「自信を持った、持たない」となるのですが、多分知らないうちに、先輩から鍛えられながらがむしゃらにやっていたら、ある程度できるようになったということでしょう。

田村 そういうことなんです。先輩にしても、部下に自信を持たせようと思ってやっていたわけではない。

執行 「早くやれ!」「うるせえな、おまえ!」「何やってんだよ、バカ!」という感じです。

田村 よくやったら「おまえ、よくやった!」と。

執行 そういうことです。これが思想的に言うと「客観」です。やっている本人は自信なんて関係ない。だから「自信」について考えるとき、一番難しいのはこの問題なのです。このことを分かったうえで自信について喋らないと、おかしくなるということです。

田村 そうですね。私は最後の最後まで、今だって自信がないわけですから。

執行 そういうことです。私もないです。

田村 次から次へ新しい課題が出てきて、それを乗り越えてやっているという1日です。自信なんて持ちようがない。だって、またやらなくちゃいけない高い壁が来るわけですから。

執行 自信がないから、やるわけです。

田村 そうです。


●「悪い自信」を持った大軍は、自信のない少ない軍勢に負ける


執行 だから現代人は「自信」の問題を取り上げる人がすごく多いですが、ものすごく難しい問題なのです。取り上げれば取り上げるほど、ダメになるのです。

 私が若い頃までは、覚えていると思うけれど、ちょっとでも自分の意...
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